下水道の散歩道 第34-63回
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下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.はじめに 7月4日の球磨川の水害に端を発した活発な梅雨前線による「令和2年7月豪雨」は、長期間にわたり、日本列島の広い範囲に災害をもたらし、連日の被害報道は、国民に大きな不安を与えました。一時鎮静化していた新型コロナウイルスの感染者が、急増した時期と重なり、国民の不安は増幅されました。特に、ウイルス・豪雨とも、今回で終わりではなく、むしろ、「はじまり」です。今後、ウイルスは、第二波・第三波に続き、何十年に一回は新型が発生する可能性が大きいですし、豪雨は、毎年のように「日常化」することが予想されます。 アフターコロナ時代の我が国の姿・国土政策を検討し始めようとした矢先、もう一つの大きな「豪雨日常化」という要素を考慮しなくてはならなくなりました。 本稿では、「WITH『コロナ』& WITH『豪雨日常化』」というダブルパンチ下の日本の将来に向けた国土政策のビジョン・在り方を考えたいと思います。私自身、連日の豪雨被害報道に接し、従来の考え方が少し、変化してきました。2. 新型コロナウイルスパンデミックで人々の考え方が大きく変わった[第34回](26)第1923号 令和2年7月28日(火)発行 第3種郵便物認可イラスト:PIXTA 私は、今回の新型コロナウイルスエフェクト(影響)で最も大きいのは、「すべての人間にとって一番大切なことは、命を衛まもることだ。」という価値観が改めて、全世界の人間に強く認識されたことだと思っています。「命第一主義」です。日本の中で、人々が今まで「当たり前」と考えてきたことが、「実は違うのではないか、考え方を変えるべきではないか」と改めて問い直されはじめました。それは、次の諸点です。ⅰ .経済・社会・行政面でのあらゆる判断において、「命を衛る」ことが優先、あるいは「命を衛る」ことと両立という考え方を取るべき。ⅱ .人間が生きていくにあたっての価値観をどこにおくか。それは、一律ではない。今は、その多様な選択の幅を広げるチャンス。多様性を認め、それに企業・行政・政治等は対応すべき。ⅲ .リモートワークで多くの仕事・学習等ができることはわかった。しかし、本当にそれが今後の日本の成長・発展の最適解なのだろうか。集合かリモートではなく、ケースによる使い分け、多様化、選択化が必要。ⅳ .大都市への人口集中はいかがか。特に、東京一極集中は感染症・首都圏直下地震・首都大浸水・富士山爆発等へのリスクヘッジの面から見直すべき。東京等における長距離通勤による時間の浪費、感染のリスク、体力の消耗は異常なこと。見直すべき。 以上は、一例にすぎません。従来の価値観への疑問を国民皆が持ち始めています。これらへの対応は、今後、議論されるでしょう。しかし、確実に言えることは、一律に基準化・マニュアル化できる問題ではないということです。多様性を認め、人々の多様なニーズに行政・政治・企業が応えていくフレキシブルな政策・対応が求められています。3.豪雨日常化は続く 7月4日に発生した熊本の豪雨やその後の九州等における豪雨は、同じ場所で次々に積乱雲ができて列をなす線状降水帯が原因でした。岐阜・長野の豪雨は、線状降水帯ではなく、太平洋高気圧の縁沿いに吹く南西風に乗って、暖かく湿った空気が東シナ海方面から日本に運ばれ、岐阜・長野の山間地の山にぶつかり強い上昇気流となって積乱雲を発達させました。昨年10月の台風19号では、台風本体の雲とは別に、水蒸気の強い流れが台風の東側にでき、大きな雨をもたらしました。いずれも、東シナ海等より多量の水蒸気が日本に流れ込んで、起こったものです。この日本へ流れ込む水蒸気量は、確実に増加しており、地球温暖化の結果であることは間違いないと言われています。気温が上がれば、飽和水蒸気量は増加します。気温が1℃上がるごとに、飽和水蒸気量は、6~7%増加します。それだけ、大気に多くの水蒸気が存在できます。東シナ海等の海水温上昇によるその上を吹く風の中の水蒸気量の上昇・気温上昇による東シナ海地域の大気の飽和水蒸気量の上昇・日本エリアでの気温上昇による日本上空の飽和水蒸気量の上昇、これが、豪雨常態化の真相です。今後、日本中のあらゆる地域で、豪雨災害は頻発する可能性があります。また、地球温暖化により、日本の南海上、日本に近い地域での台風の発生と急速な発達、それに伴う日本上陸の確率増加は、ここ数年の事実がもの語っています。 こうしたなか、地球温暖化対策等長期的な抜本策を取りつつも、まずは、短中期的な対策を打っていくとき、従来のハード対策を中心とした施策は、際限がなく、いままでとは違った考え方が必要と心から感じます。国土交通省等が提唱しているハードとソフトを合わせた「流域治水」という考え方すら、もっと違った発想がさらに必要ではないかと思います。4.ダブルパンチ下の国土政策4-1 基本的考え方 「コロナ」、「豪雨の常態化」のなか、まず、強く意識しなければならないのは、次の三点です。① 国の財政健全化はやはりきちんと考えるべき コロナの緊急対策は、当然必要で、緊急の財政追加措置は正しい「WITH『コロナ』& WITH『豪雨日常化』」 ダブルパンチ下の日本将来に向けた国土政策の在り方を考える

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