下水道の散歩道株式会社NJS 取締役技師長 開発本部長[第6回](34)第1864号 平成30年3月27日(火)発行 第3種郵便物認可イラスト:PIXTAの自治体がディスポーザ設置に反対している。けしからん。解禁しろ」という要請でした。建設省に勤務していた私は、上司の安中德二下水道事業調整官(当時)と二人で何度も在日米国大使館に説明に行きました。当時は、全国の下水道普及率がまだ40%程度で、未普及の地域も多く、普及の進んでいる区域も大部分が合流式下水道区域であり、供用している下水処理場も能力が満杯のところも多く、とても、ディスポーザを解禁できる状況にはありませんでした。 その後、2000年以降、ディスポーザの効果・影響に対する研究・実証実験が進められ、多くの知見が集積されてきました。歌登町(現枝幸町)における実証実験、黒部市の取り組み等がありました。しかし、我が国全体の動きは変わっていません。 そうした中、私は、今改めて、各戸設置単体ディスポーザ排水の下水道直接投入について考える時期が来ていると考えています。それは、次のような社会情勢・下水道を取り巻く諸情勢の劇的な変化によるためです。①人口減少が続きかつ節水志向の中、今後下水処理場への流入水量・流入負荷は減少し、下水道施設の能力余裕が増加、②それに伴い使用料収入は減少し今後益々下水道経営は困難に、③合流式下水道の改善が大きく進捗、④下水道資源の有効利用の観点より汚泥消化タンクからのバイオエネルギー活用が進み有機物の下水への投入が期待されるようになった、⑤ゴミの収集・焼却との1.変化に的確に対応する 下水道経営 「経営の基本」として、今日、最も重視されていることは、「変化への対応力」です。1970年代以降創業の製造業で日本唯一の1兆円企業となった日本電産を育て上げた永守重信氏は、「企業が成長し続けるために最も大事なことは、自ら不断に姿を変えられる力である」と述べています。フリードリッヒ・ニーチェの「脱皮しない蛇は滅びる」と同義です。厚い役所の壁を打ち破ってクロネコヤマトの宅急便を立ち上げた小倉昌男氏は、「前例主義からの脱却」・「流れを読んで変化に対応」を経営の根幹と語っています。 下水道インフラの「経営」が、今、全国の自治体で、下水道を巡る「最重要課題」になっています。今こそ、従来の発想に囚われない、しかし科学的・論理的な事実に基づいた「多角的視点に立ち、変化に的確に対応する下水道経営」が求められています。その経営方針の一つとしてクローズアップされるのが、「ディスポーザへの対応」です。2.改めて単体ディスポーザ排水の下水道直接投入を考える 我が国の下水道において、各戸に単体ディスポーザの設置を認めるか否かの問題は、およそ30年前にさかのぼります。日米通商交渉の中、米国からの「米国製ディスポーザを日本に輸出し幅広く販売したいのに建設省や下水道管理者「多角的視点に立ち、変化に的確に対応 する下水道経営」と「ディスポーザ」谷戸 善彦総合的な比較評価によりトータルとしてCO2の削減が期待できるようになった、⑥管路の維持管理基準が制定され管路維持が充実、⑦老齢化の進行によりゴミ出しの作業困難世帯が増加―。 こうした変化を受け、下水道経営においても、企業経営のように、変化に的確に対応すべき時期が来ていると思います。東洋大学の松尾友矩前学長(現常務理事)と先日、大学にお伺いしてお話をさせていただいたとき、松尾前学長は「下水道インフラからのエネルギー回収を考えると単体ディスポーザは是非導入すべき」とおっしゃっていました。 ディスポーザの利点として、もとから言われている ⅰ 家庭内での臭い等衛生問題の解消、ⅱ ゴミステーションでの鳥獣被害軽減効果、ⅲ ゴミ回収回数の軽減による市町村全体としての財政効果、ⅳ 雪国における冬場のごみ収集困難の解消―等も合わせて考えると導入効果は大きいと考えられます(注. 一方、紙おむつの下水道への投入については、国交省の検討会でも指摘されているように、高吸水材として使われているマイクロプラスチックの影響について、慎重に検討すべきと私は考えています)。 導入にあたっては、利用者の利便性拡大と負荷増大を考慮し、「ディスポーザ使用料金」を下水道使用料に上乗せして徴収するべきと考えます。これにより、下水道財政への貢献にとどまらず、ディスポーザ導入を巡って議会・市民の方が議論することにより、今や「あってあたりまえ」のインフラになってしまい、空気のような存在になっている下水道を考える良い機会になると思います。今や、単体ディスポーザの導入に懸念点は少なく、CO2削減等環境への影響の効果比較や経済比較等を科学的・論理的に行い、導入に向けた議論を幅広く行う時期に来たのではないでしょうか。
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