ハードでトランスフォームし、地球環境に優しいグリーン列島に下水道インフラ政策アフターコロナ時代において、社会・経済・生活・行政等における価値観・基本的考え方が大きく変わる中、下水道インフラ政策も、パラダイムシフトをとっていかねばなりません。私は、次の8点を政策提言したいと思います。① 下水道インフラは、人間の命を守る最重要の「衛生インフラ」コロナパンデミックにより、下水道インフラが人類の命を衛る「衛生インフラ」であることが改めてクローズアップされました。「衛生」を、下水道インフラの使命の一番目にきちんと位置付けることが必要です。② WBE(Wastewater BasedEpidemiology)下水道疫学の重視。WBEが世界を救う下水道インフラの新しい使命として、下水のモニタリングによる「感染症等疫病蔓延の予測および終息検知」が新たにクローズアップされました。下水中からのコロナウイルスのRNAの検出による予測・検知です。今回の新型コロナウイルスのような呼吸器系伝染病でも、便よりトイレを経て下水道へウイルスが流入しており、消化器系伝染病も含め、的確な予測・検知が可能です。将来的には、管路・マンホール・中継ポンプ場等にリアルタイムに計測可能なウイく「ICRT」活用の徹底化へ人の命を衛る衛生インフラである下水道インフラは、下水道インフラの整備・管理において、作業者の安全を強く守らなければなりません。今後の下水道インフラの建設・管理において、安全のための無人化・ロボット化・IT化を徹底的に進めるべきです。生産性の向上・精度向上・コスト削減にも繋がります。他の社会インフラ以上に、ロボット・ドローン等を活用したRoboticsが重要です。今後の下水道インフラ政策においては、ICTではなく、「ICRT(InformationCommunication RoboticsTechnology)」が重要です。④ 合流式下水道大改革(CS(Combined Sewer)大改革) 感染症対応を考えるとき、合流式下水道雨天時越流水問題は、決して看過できない問題となりました。完全分流化等、原則的に越流水を一切出さない抜本的対策が避けて通れないと考えます。⑤ 下水処理水レベルの超高度化(UT(Ultra Treatment))下水道インフラの衛生インフラとしての位置づけの増大化とともに、公共用水域へ出る水の最後の砦である下水処理場の処理レベルの高度化・超高度化が求められます。そのためには、イニシャル・ランニングコストが劇的に小さいイノベーション技術の開発が必須です。ゲノム編集の活用による処理効率の高い微生物の生成も一案です。⑥ 処理施設(T)・管路(P)の大改革。感染症対策設計、無人化、自動化、省維持管理化、耐久化飛沫対策としての処理場内の二重覆蓋化の推進、建設・管理における無人化の推進、長寿命化のための100年耐用資機材の本格的採用等が重要です。今後は、メンテナンスフリーの視点も必要です。⑦ 下水道インフラトータルとしてのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進第3種郵便物認可 第1920号 令和2年6月16日(火)発行(39)力を有する中小企業のさらなる活用に舵を切るべきでしょう。(5) 災害列島日本をソフト・ 国民の安全安心の確保に加え、海外からの国際企業誘致・安定したサプライチェーンの構築等の観点からも、今後の国土政策において、災害対策は、引き続き、極めて重要な施策です。ただ、その手法として、今後は、従来のハード対策に加え、制度面や運用面でのソフト対策のウエイトを高めていくべきでしょう。具体的には、都市計画による居住地域制限等です。上述の地方におけるスマート田園都市の展開等を進めるにあたっても、環境対応・地球環境保全の視点が重要となります。3.アフターコロナ時代の ルスセンサーを設置し、データを自動的に伝送し、AIを活用して蔓延等の予測を可能とするシステムも夢ではありません。海外では、こうした研究を下水道疫学(WBE)と呼んでいます。③ 下水道インフラはICT活用でな 下水道インフラのあらゆる局面でのDXが求められます。今後は、無人化・自動化・効率化・安全・コストスリム化のため、管路・処理施設に種々のセンサーを徹底的に設置しLPWAで情報を送信・収集するセンシングモニタリングシステムの構築と、ICRT化が重要です。⑧ 下水道インフラ建設・維持管理財源(FINANCE)の抜本的見直しと官民連携の推進下水道インフラが国民の命を衛る重要インフラであるという観点から、建設費・維持管理費の負担論を見直す必要があるかもしれません。水洗化による利便性の向上・身の回りの生活環境の向上という個人受益面もある中、どこまで税金で賄うか、根本的議論が必要です。一方、コロナ対策で国・自治体の財源が厳しくなる中、下水道事業においても、DX、ICRT、メンテナンスフリー等により、コストスリム化を徹底することが必要です。また、経営手法として、官民連携のさらなる推進が必須です。 以上、衛生・WBE・ICRT・CS・UT・TP改革・DX・FINANCEの8点です。4.おわりに 前々号で、フランスの経済学者で欧州復興開発銀行初代総裁のジャック・アタリ氏が日本経済新聞に語った「日本は危機対応に必要な要素、即ち国の結束、知力、技術力、慎重さを全て持った国だ。危機が終わったとき日本は国力を高めているだろう」という言葉を紹介しました。一歩一歩、その方向に向かっている気がします。コロナ後の世界において、日本は再び、輝きを取り戻すのではないでしょうか。今後の経済再生も、ピッチが速いかもしれません。さらに、無事、東京オリンピックが開催された暁には、一躍、世界経済を牽引する可能性があります。その後には、大阪万博が続きます。素晴らしい将来の日本に向け、下水道インフラにおいても、従来の考え方にとらわれないゼロベースのパラダイムシフト政策が望まれます。(元国交省下水道部長、前日本下水道事業団理事長)
元のページ ../index.html#60