下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦[第32回](42)第1918号 令和2年5月19日(火)発行 第3種郵便物認可レゾンデートル(存在意義)を考える―イラスト:PIXTAを衛ること」と「経済」の両立を目指すべきという認識が新たに生まれました。 こうした中、「上下水道」は、まさに、人類の命を衛る「衛生インフラ」そのものです。世界の感染症・水系伝染病によるパンデミックの歴史の中で、「再度蔓延防止策」の切り札として、欧米そして日本で「上下水道」が整備されてきました。特に「下水道」は、中世ヨーロッパで、ペスト・コレラが蔓延したことを受け、ロンドン・パリ等で建設が本格化しました。日本でも、明治初期のコレラの流行が、下水道整備の契機となりました。下水道インフラの歴史は、感染症対策の歴史です。 今回も、もし、我が国で普及率80%、大都市ではほぼ100%という高い水準の下水道整備がなされていなければ、新型コロナウイルスは、もっと、拡がっていたでしょう。新型コロナウイルスは、接触感染・飛沫感染が主ですが、人の尿・便からも検出されています。中世の下水道整備前のヨーロッパのように糞尿を道路上に放棄する状態であれば、今回のパンデミックの感染者・死亡者は、大きく増加していたでしょう。今回の唯一ともいえる自己防衛策の「手洗い・うがい」も、飲用にまで対応できている日本の上水道インフラとその「手洗い・うがい」の排水を受け入れ、高級処理・塩素滅菌等で適切に処理・消毒して公共用水域に放流している下水道インフラのしっかりとした貢献があってこそです。 多くの社会インフラは、それぞれ、重要な使命を果たしています。しかし、下水道インフラは今回のコロナパンデミックにより、従来からの「災害対応」「環境保全」「生活改善」「資源エネルギー創出」といった使命に加え、もともと整備スタートの契機でもあり、人類にとって根源的な「衛生・命を衛る」という使命が改めて、再認識されました。「衛生・命を衛る」ことは、下水道インフラの「レゾンデートル(存在意義)」そのものです。 AC(アフターコロナ)の時代には、多くの社会インフラの中で、下水道インフラの位置(重要度・優先度)は、大きく変わると思います。大きく、重要度・緊急度が高まると思います。3.AC(アフターコロナ)時代の価値観・生活様式の大きな変化と下水道インフラ コロナパンデミックは、しばらくは、完全終息にはならないでしょう。1~2年といった長期戦になると思います。それでも、必ず、終息宣言が出され、今回のコロナパンデミックは一旦、区切りを迎えます。その際、前回のSARS、MERSの時と異なり、社会における価値観・生活様式の大変革が起こると考えます。それは、次の諸点です。 ①デジタルトランスフォーメーション(DX)の新たな形での前倒し進展、②グローバルなサプライチェーンの新たな形での改革、③株主資本主義から公益資本主義(ステークホルダー資本主義)への転換、④環境へのより力を入れた対応によるサステイナブルな地球環境保全に向けての改革、⑤自然と共生した生活志向等、人生の価値観の変革。それに伴う都市から地方への移住や都市生活と地方生活の両面享受(マルチハビテーション)等による都市と地方の共存・共栄。 ①については、私が従来から何度も言ってきた経済・社会の最適化のための「デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展」は、変わりませんが、その最適化判断指標の中に、従来からの生産性の向上・コストスリム・高品質に加え、真っ先に「命を衛る・人類の生存の継続性」が考慮されるAC(アフターコロナ)時代と下水道インフラ―AC時代の社会の姿と下水道インフラの1.はじめに 日本そして世界は、新型コロナウイルス渦中にあります。過去の感染症の歴史を見ても、一度収まっても、第二波・第三波と続き、1~2年の長丁場となる可能性があります。そして、何より大きいのは、今回の新型コロナウイルスパンデミックの前と後で、生活・経済・政治・行政・社会・教育・医療・生き方等あらゆる面で、基本的考え方・価値観が根本から変化するであろうことです。 本稿では、コロナエフェクト(コロナの影響)として明らかになったこと、今後の社会・経済における価値観の変化、そして、そのAC(アフターコロナ)時代の下水道インフラのレゾンデートル(存在意義)とそれをさらに発展させるための対応について、考えたいと思います。2.社会インフラの中における下水道インフラの位置(重要性・優先度)が変わった 私は、今回の新型コロナウイルスパンデミックによるコロナエフェクト(影響)で一番大きいのは、「衛生すなわち命を衛ることがすべての人間にとって一番大切なことだ」ということが改めて、全世界の人間に、強く認識されたことだと考えています。経済その他の人間活動も、命あってのことです。経済も、命を守るために、どうあるべきか(例えば経済破綻による自殺者を減らすために経済対応を考える等)を考えるべきかもしれません。そこまででなくとも、経済効率性至上主義ではなく、「命
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