第3種郵便物認可 第1916号 令和2年4月21日(火)発行(39)道インフラは、生活を、また命を守る「衛生」が究極の目的です。大きな事業費のかかる下水道事業の着手は、市議会で大議論となり、実際の着工は、国(内務省)から上下水道衛生技師安部源三郎を招いてのスタートとなった1928年となりました。岐阜市は、当時、風土病として、マラリアが発生していたのが、下水道インフラが進捗するとともに、マラリア患者はほとんど発生しなくなり、「模範的衛生都市」として、全国に認められるようになりました。岐阜市下水道の先進性は、素晴らしいものでした。 岐阜市はさらに、下水道事業の着手にあたり、日本で初めて、分流式下水道を採用しました。1932年に岐阜市において、日本で初めて、直営で、分流式下水道計画案が作成されました。それまでに下水道事業をスタートさせた都市は、全国で数都市ありましたが、すべて合流式でした。岐阜市は、水路・側溝で雨水を排除するべく、雨水系の整備を進めていたこともありましたが、衛生・水環境への深い配慮があったのだと思います。新型コロナウイルス問題で、改めて、合流式下水道の雨天時無処理放流は、大きな問題になると思います。処理場を通過した下水中のコロナウイルス滅菌処理は、検証できたとして、合流式下水道雨天時越流水問題への対応は、再度、俎上にのぼる可能性があります。こうした中、88年前に、分流式下水道を全面的に採用した岐阜市の先進性は、素晴らしいと思います。分流式下水道を計画区域全域に採用しての初の下水処理場は、1937年に、岐阜市祈年町に完成しました。現在の中部プラントです。全量分流式区域を受け持つ処理場としては、日本初です。 岐阜市下水道の先進性は、これらにとどまりません。下水道事業への公営企業法適用、企業会計適用日本第一号です。それは、第二次世界大戦後まもない1952年10月のことです。いまから、68年前です。ここ10年、政府の音頭で、全国の下水道事業体で、企業会計化が急ピッチで進んでいます。そである「スペイン風邪」は、世界で全世界人口の4分の1である5億人が感染し、5000万人が亡くなりました。日本でも、当時の人口5500万人中、2380万人が感染し、39万人が死亡しました。このスペイン風邪は終息まで2年以上かかり、史上最大級といわれる甚大な感染被害をもたらしましたが、水道・下水道というインフラ整備が不十分であったことが強く影響していると考えられます。今回の新型コロナウイルス対策において、蔓延防止の最も効果的な手段は、「手洗い」と言われていますが、当時の世界は、飲用水もままならない中、安全な手洗い用の水など、全くなかったでしょう。今回も、今後広がるであろう発展途上国における上下水道インフラ整備不足が懸念されるところですが、日本など上下水道先進国での蔓延防止効果は確実にあったのではないでしょうか。 こうした下水道インフラの効果をエビデンスを持って科学的に証明できれば、下水道インフラの評価、下水道インフラの重要性の再認識に大きく繋がり、今後の下水道事業の発展に大きく寄与し、下水道インフラの地位が大きく向上するでしょう。3.100年前の「スペイン風邪」を契機に日本の近代下水道インフラが本格スタート 1921年、日本で39万人の死者を出したスペイン風邪が終息した翌年、岐阜市で、岐阜医師会が、「下水道速成建議」を発出しました。当時、それまで貴重な資源であった各家庭からの糞尿を岐阜市周辺の農家が引き受けなくなり、市内で引き取ってもらえなくなった糞尿の始末問題が生じ、衛生問題が発生していました。その中で、医師会が、下水道を早く作れと迫りました。糞尿の引き取り問題が直接の契機でしたが、建議発出のきっかけとして、スペイン風邪の大流行を受けての衛生・安全への危機感があったことも一因だったと思います。医師会からの建議という点が大きいと思います。下水れを、68年前から着実に実行しています。こうした、経営意識の徹底が、建設費や維持管理費を低減させるための技術開発・ICT活用に繋がっていると思います。下水道料金(使用料)も、日本で初めて、戦前の1938年4月から徴収しています。 このように、100年前のスペイン風邪パンデミックを契機に、日本の近代下水道インフラは、事実上、本格的にスタートしました。 先日、20年前の国交省下水道部長時代から、折に触れ、下水道インフラの話をさせていただいている岐阜市を選挙区とされている野田聖子元総務大臣に下水道インフラの最新動向・下水道インフラ分野のICT・下水道インフラの持つ資源エネルギーポテンシャル等についてレクチャーさせていただく機会がありましたが、その時、野田元大臣も、岐阜市下水道の先進性・先導性に感動し、驚いておられました。4.おわりに 4月7日、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出され、8日から発動されました。先に述べたインフルエンザ・パンデミックとしては、被害が最大で、すべての感染症の中でも14世紀のペスト感染と並んで被害が大きかった「スペイン風邪」の終息からちょうど100年です。「世界の歴史は感染症との戦いの歴史」です。その戦いに勝利してきた主因は、公衆衛生の根幹をなす「上下水道の整備」です。必ず、今回の新型コロナウイルスにも、人類は勝利できると思います。日本経済新聞4月9日付朝刊1面に掲載されたフランスの経済学者で欧州復興開発銀行初代総裁のジャック・アタリ氏の次の言葉を胸に刻んで、頑張っていきたいものです。 「日本は危機対応に必要な要素、すなわち国の結束、知力、技術力、慎重さを全て持った国だ。島国で出入国を管理しやすく、対応も他国に比べると容易だ。危機が終わったとき日本は国力を高めているだろう」
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