下水道の散歩道 第1-33回
54/60

第3種郵便物認可 第1914号 令和2年3月24日(火)発行(37)環境行政の方向性て還元利用され、環境負荷の少ない美しい街ができあがっています。 下水処理施設で、北欧の特徴は、岩盤地形を利用した「地下式下水処理場」が多くみられることです。ストックホルム郊外の「シェッパラ処理場」やフィンランド・ヘルシンキの「ヴィーキンマキ処理場」が有名です。岩盤をくりぬいて建設するほうが地上に建設するより安価で、臭気対策等考えると、周辺環境に優しいので多く採用されています。北欧諸国の下水処理場の処理のレベルは非常に高く、デンマーク、フィンランドでは、窒素除去のアナモックス処理も多く採用されています。また、エネルギー自立型下水処理場の確立への意識も高く、MAP法を使ったリンの資源回収も行われています。また、下水道インフラにおけるICT活用も進んでいます。6.SDGs達成に向けて 私は、以前から、北欧諸国に、注目してきました。我が国と人口規模が大きく違い、同一の物差しで比較できないところはあります。ノルウェーは面積39万km2・人口537万人、スウェーデンは45万km2・991万人、フィンランドは34万km2・533万人、デンマーク4.3万km2・571万人です(日本は38万km2・1億2630万人です)。しかし、その技術力、デザインセンス、デジタル化のスピード、教育、社会保障には、目を見張るものがあります。これから、急速に人口減少が続き、「生産性の向上・コスト意識の徹底・デジタルトランスフォーメーション・働き方改革」を進めていかねばならない我が国にとって、参考になるものは大変多いと考えています。とくに、今回紹介した「フィーカ・ヒュッゲ・シス」という素晴らしい「北欧スピリット」は、かならずや将来の日本の幸福のヒントになると思います。こうした北欧の素晴らしい点も取り込みながら、日本独自の技術・スピリットを生かして、2030年のSDGsの達成に向け、着実に進んでいきたいものです。ヒュッゲブームが起こり、注目のキーワードになりました。デンマーク人がとても大切にしている、時間の過ごし方や心の持ち方を表す言葉です。「ほっとくつろげる心地よい時間、そんな時間を作り出すことによって自然と生まれる幸福感や充実感、そして暮らしを楽しむ姿勢」といったものです。ヒュッゲの精神による具現化として、次のようなものがあると言われています。①家族と友人の時間を大切にする、②自然を身近に感じる、③ものを大切にする、④心地よい空間づくりを心掛ける、⑤仕事にしばられない、⑥今あるものに感謝する。 2019年に2年連続で世界幸福度ランキング1位になったフィンランドには、「シス(SISU)」という「フィンランド魂」があります。厳しい環境の中でも、勇気・忍耐・自然体を忘れない精神力、シンプルな生き方、折れない心、自然を愛する心、仕事も家庭も趣味も勉強も貪欲にという考え方、人間愛、こうしたものが「シス」の考え方の中にあります。 この「スウェーデンのフィーカ」「デンマークのヒュッゲ」「フィンランドのシス」の三つのキーワードが、北欧の高い幸福度の鍵であると思います。その幸福感の背後にあるのは、先述の「ワークライフバランス」と「人間関係」であると考えます。4.働き方改革関連法、   いよいよ本格始動    日本も新たな価値基準へ 2018年6月、働き方改革関連法案が国会で可決されました。改革関連法の骨子は、①時間外労働の上限規制、②年次有給休暇の確実な取得、③フレックスタイム制の拡充、④勤務間インターバル制度の普及促進等です。昨年4月からの大企業での実施に引き続き、今年の4月からは、中小企業でも、時間外労働の上限規制が適用されます。いよいよ我が国でも、ワークライフバランスがクローズアップされてきました。こうした中、働き方改革に対応するためには、さらなる生産性の向上、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が必要でしょう。現在、コロナウイルスの関係で、テレワーク、在宅勤務の推進が進められていますが、今回のコロナ対応を、「災い転じて福となす」きっかけと考え、モバイルワーク・テレワーク等DXの強力な推進を図るべきでしょう。その際、「フィーカ」「ヒュッゲ」「シス」のスピリットは、大いに参考となるでしょう。5.北欧の下水道インフラ・  北欧諸国は、いずれの国も、環境に対する意識の高さ、環境に対する敬意を強く有しています。私が2018年7月の本稿で紹介したように、スウェーデンでは、下水道インフラ管理等、環境に関連した仕事は、「国民の憧れの仕事」になっています。下水処理場の高度処理施設増設式典にグスタフ国王が来賓として出席し、国王のサインが銘板として処理場に飾られているというお国柄です。世界に向け、正論で環境問題に関する議論をしかける17歳のグレタ・トゥーンベリさんは、スウェーデンの女性環境活動家です。 北欧の環境関連プロジェクトで有名なものは、ストックホルムの「ハンマルビー・ショースタッド地区のサステイナブルエコ都市プロジェクト」です。2004年の夏季オリンピックにストックホルム市が立候補した際に計画された「環境に徹底的に優しいエコタウンづくり」プロジェクトです。オリンピックの会場と選手村として、ストックホルム中心部から4km離れたもともとは古びた港と工業地区からなる場所に、200haの、環境に配慮しエネルギーを徹底的に循環させる新しい街をつくり、オリンピック終了後に恒久的な循環エコタウンをつくるという構想でした。オリンピック誘致は、叶いませんでしたが、環境都市づくりは、予定通り進められ、2020年今日までに、ほぼ完成を見ています。新しい都市内では、排水・廃棄物はリサイクルし、再生エネルギーとし

元のページ  ../index.html#54

このブックを見る