下水道の散歩道 第1-33回
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下水道の散歩道株式会社NJS 取締役技師長 開発本部長[第4回]第3種郵便物認可 第1860号 平成30年1月30日(火)発行(35)イラスト:PIXTA 下水道事業は、果たす役割が多様で、施設内容も管路・処理施設・ポンプ施設・雨水貯留施設等と幅広い特長があります。ここ数十年間に整備が進み、現在、全国で、管路延長47万km・処理施設2200箇所・ポンプ場3700箇所・資産規模90兆円の膨大なストック量となっています。こうした中、他の社会インフラと比べ、下水道インフラでは、以前より、「マルチパーパスユーティリゼーション」を数多く実行してきました。具体的には、管路内への光ファイバーやセンサー布設、パイプインパイプでの圧送管布設、処理施設の防災拠点化、下水道インフラ施設と他の公共施設の合築、下水処理水や下水汚泥の多目的利用等です。広島カープの本拠地マツダスタジアムの地下の下水道大規模雨水貯留施設や鎌倉市の処理施設と武道館の合築も土地の多目的利用の一例です。2.下水道インフラの防空壕活用 下水道インフラのマルチパーパスユーティリゼーションとして、最近、私が考えていることがあります。それは、「有事に備えての下水道インフラの防空壕活用」です。 北朝鮮の脅威が増しています。核ミサイル対応として、我が国全土で、本格的に、地下防空壕の確保を検討すべき状況になっています。このとき、国・地方自治体の財政健全化の観点から、まずは、既存施設の防空壕活用を真っ先に考えるべきでしょう。候補として、1.生産性向上とマルチパーパスユーティリゼーション 平成30年度政府予算案が昨年12月22日閣議決定されました。その政府予算案のポイントは、「経済再生」と「財政健全化」の両立です。「経済再生」としては、具体的には、「生産性革命」を謳っています。公共事業分野においても、「生産性革命」と「財政健全化」が柱です。この二本柱の下、下水道事業においても、12月22日の財務省公共事業担当・中山主計官記者発表「平成30年度国土交通省・公共事業関係予算のポイント」の中で、「ICT、AI、IoTの活用による下水道施設管理の低コスト化・省力化」・「下水道事業における受益者負担の原則と民間活用の推進」が特記されています。 政府を挙げて、生産性向上・施策効率化・低コスト化による財政健全化を目指すとき、一つの発想として、「マルチパーパスユーティリゼーション(Multipurpose Utilization)」が挙げられます。モノ・コトの多目的利用です。 「マルチパーパスユーティリゼーション」には、2つの種類があります。「同時複数目的達成」と「本来目的使用以外の時間帯での他目的利用」です。同時に複数の目的を達成するようタスクを処理できれば、生産性は劇的に向上します。本来目的に使用する時間帯以外の時間帯で他の目的にも活用できれば、追加的な新規整備が回避され、財政の健全化に貢献します。「マルチパーパスユーティリゼーション」と「下水道インフラの防空壕活用」谷戸 善彦地下街、地下鉄、大規模ビルの地下空間等が浮かびますが、その存在場所は大都市等に偏っており、公的施設は少なく、トータルのストック量も多くありません。 こうした中、全国に数千箇所ある下水処理施設・ポンプ施設において大きな地下空間を有する「下水道インフラ」の活用は、極めて有効です。下水は、自然流下で地面深く流下するため、下水道のポンプ施設・処理施設は地下深くまで掘削して建設されており、多くの場合、地下に広い空間を有しています。また、昭和40年代中盤以降に設置された(全国2200箇所の処理施設の大部分が該当します)大中規模の処理施設の多くには、配管類をまとめて通す「管廊」が設置されており、この「管廊」は、防空壕用の避難空間として大変有効です。全国42都道府県に100箇所以上存在する流域下水道の処理施設は、敷地も広く、ほぼすべてが管廊を有しており、地下空間の広いところも多く、防空壕として最適です。阪神淡路大震災を契機に建設された神戸市の33kmに及ぶ内径3m規模の処理場ネットワーク連絡管は中を人が移動できるように作られており、有事には避難空間として効果を発揮するでしょう。さすがに、汚水管路の中を防空壕に活用するのは無理がありますが、大規模雨水貯留施設等は、天気等状況を見極め、短期間であれば、緊急時に活用する手があるかもしれません。社会インフラの中で、我が国の地面下に占める容積が一番大きなインフラは、下水道インフラだと思います。人間が避難できる空間容積で見ても、下水道インフラが一番でしょう。 全国の自治体においても、有事に備える自治体BCP計画の中で、地下防空壕施設として、既存の下水道インフラ施設を位置づけ、避難者への緊急対応物資の確保準備等を始める時期が来ているのではないでしょうか。

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