下水道の散歩道 第1-33回
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イラスト:PIXTA勢湾台風がありましたが、そのあとは、それほどの強さの台風はありませんでした。それが、地球温暖化による南海上の海水温の高さの影響により、近年の台風は、急激に強度を増しています。特に、日本上陸時点での強さは、台風発生地点の北上とともに、今後、ますます、高まり、かつての最強台風の再来が懸念されます 第三点は、日本中、あらゆる場所が、水害の危険を有していることです。ここ数年、2014年8月の広島土砂災害、2017年7月の九州北部豪雨災害、2018年7月の石狩川氾濫、2018年7月の西日本豪雨災害と、関東・東北以外の地域で多くの水害が発生しました。その中で、関東・東北はほとんど被害がなく、関東・東北は水害に強いのではとの思いもあったかと思います。しかし、その考えは無残にも否定されました。日本中が、水害の危険性を孕んでいることが確認されました。日本列島は、水害列島です。 第四点は、下水道インフラの脆弱性の改めての認識です。今回の全国の被害の中で、被害額でいえば、内水被害も、かなりの額に上ります。都市機能が集中している大都市部における内水対策としての下水道インフラの重要性が改めて認識されました。今後の水害対応を考えるとき、「選択と集中」が必須です。世界に誇る都市の中枢機能部を下水道インフラが柱となって、水害から守ることは最重要です。また、今回、河川沿いの低地に立地することの多い下水処理施設・ポンプ施設の水害対策、上水道水源が下流に連続する信濃下水道の散歩道㈱NJS 取締役 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.2019年の連続風水害から学んだこと[第26回](40)第1906号 令和元年11月19日(火)発行 第3種郵便物認可破壊的イノベーション―つの視点 本年2019年は、自然災害に対する国民の認識・自然災害対応方針の在り方を考える上で、我が国の歴史の中で、大きな転換点になる年であると思います。浸水ハザードマップが全国で外水対応・内水対応とも相当な範囲で作成され、2018年には、三大都市圏の巨大洪水等を検討対象とした土木学会による「『国難』をもたらす巨大災害対策についての技術検討」が発表され、国民への周知はかなり進んできていましたが、心の奥底では、みな、大河川の広域的で大規模な破堤は、そう起こるものではないと考えていたと思います。内水被害も、甘く考えていました。15号・19号と立て続けに我が国を直撃した台風は、突風・大雨と甚大な被害を全国に与えました。特に、事前に大規模な準備・避難体制確立の指示を行ったにもかかわらず、広範囲に大きな被害をもたらした台風19号は、「従来の災害対応・社会インフラ整備の考え方でよいのか」という大きな疑問を投げかけました。 今回の水害から学んだ第二点は、「今後、日本を襲撃する台風は、引き続き、大規模で極めて強く、毎年のように来る可能性が高い」ことです。台風15号は、日本上陸時、960ヘクトパスカル(最低気圧は955ヘクトパスカル)、19号は、955ヘクトパスカル(最低気圧は915ヘクトパスカル)を記録しました。数十年前には、日本上陸時925ヘクトパスカルの第二室戸台風、929ヘクトパスカルの伊水害列島克服への新たな視点―コンプリヘンシブ・マルチエフェクト・川のような河川の上流部に存在する下水処理施設の水害対策の重要性が強く認識されました。2.水害列島克服への新たな三 今回の連続的な水害から学んだことを踏まえ、ハードの水害対策は必須です。河川事業・下水道事業に対する公共投資の拡充は、重要です。国の歳出の拡大を是とするMMT(Modern Monetary Theory)の議論もきちんとする必要がありましょう。しかし、こうした未曾有の危機の時こそ、従来の発想にない新たな対応が必要です。私は、水害列島克服に対し、今後のあるべき姿として、次の三つの視点が重要と考えています。第一は、対応手段として、単一の施策ではなく、ハード・ソフト・技術・制度あらゆる施策を総合的・統合的・包括的に活用して対応する「コンプリヘンシブ(総合的)」の視点です。第二は、災害対策に費やされるハードを中心とした膨大な予算は「災害対応」だけの効果を求めるのではなく、「将来の我が国の国益に資する」種々の観点からの「マルチ」な効果を生み出すよう施策を展開する視点です。「マルチエフェクト・エクスペンディチュア(多重効果歳出)」です。第三は、「破壊的イノベーション技術」の徹底的活用の視点です。(1)総合的施策展開の視点   Comprehensive 堤防強化等、ハード対策の他、次の手段を活用した総合的施策展開が重要です。① 都市計画・地域計画において、居住可能区域の制限を設ける。大規模河川沿いの区域のうち、危険度の高い区域は、将来に向け、居住者の移転を促す施策(家屋の新規建築や増築禁止等)を実施。個人財産・個人の考え方にかかる問題で慎重な対応が求められますが、手厚い財政的支援を行った上、全国の人口減少傾向を考えると、対応化すべき時期に来ていると思います。② 避難等における自助・共助・公助のさらなる推進。③ 適時適切な避難情報発令のため

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