下水道の散歩道 第1-33回
42/60

(5)世界の下水道界で日本が「ヘゲモニー国家」の地位を 以上の施策展開・未来戦略により、日本は、世界の下水道界で、「ヘゲモニー国家」の地位を得ることができるようになるでしょう。「ヘゲモニー国家」とは、「覇権国家」のことで、ヘゲモニー(hegemony)とは、「特定の集団が長期にわたってほとんど不動とも思われる地位あるいは権力を掌握すること」です(歴史学では、近代世界システムにおけるヘゲモニー国家は、17世紀のオランダ、19世紀のイギリス、20世紀のアメリカの三国のみと言われています)。令和時代の下水道インフラ未来戦略のゴールは、「世界の下水道界で日本がヘゲモニー国家になることを目指す」としたいものです。(6)「新々下水道ビジョン」「新下水道財政研究委員会」「下水道法改正」の3点セットを 以上のような未来戦略や新たな骨太の施策を実施していくに当たり、根幹となる新しい柱の構築が国において必要と考えます。それは、平成26年から5年たった「新下水道ビジョン」の見直し、しばらく動いていない「下水道財政研究委員会」の再開、そして、平成27年以来の「下水道法の改正」の3点です。ここ数年の下水道インフラを巡る諸情勢の変化は、非常に大きいものがあります。特に、災害の激化・甚大化、下水道事業【筆者略歴】昭和49年3月、東京大学工学部都市工学科卒業後、同年4月建設省採用。京都府下水道課長、建設省下水道部下水道事業調整官、東北地方整備局企画部長、国土交通省下水道部下水道事業課長、同下水道部長、日本下水道事業団理事長(公募による選任)等を歴任。平成29年3月より現職。平成30年6月より全国上下水道コンサルタント協会企画委員長。著書に「21世紀の水インフラ戦略」(理工図書。書き下ろし)がある。 ●「下水道の散歩道」は、月1回(各月後半発行号)の掲載です。第3種郵便物認可 第1902号 令和元年9月24日(火)発行(43)たがる全国の下水道事業のいくつかを「直轄広域下水道」とするという選択肢もあるかもしれません。問題の所在を直視し、議論を戦わせて頂きたいと考えます。(3)下水道インフラ関連情報の一元化・プラットフォーム構築・オープン化と下水道官民一体デジタルトランスフォーメーション 世界を視野に入れた下水道インフラ未来戦略を考えるとき、必須であると考えるのが、官民挙げての「下水道界全体のデジタル戦略」です。「下水道界全体でのデジタルトランスフォーメーション」です。今後、本格的にスタートする「下水道インフラ関連情報の一元化・プラットフォーム化」において、既存の仕組み・手法にとらわれない抜本的変革を実施し、データのオープン化を実現し、画期的な高効率化・低コストの下水道マネジメントへ繋げていきたいものです。その際、先述したブロックチェーン技術が生かされるかもしれません。こうした動きが取れれば、政府が推進する科学技術基本計画に基づく「Society5.0」を真っ先に具現化した分野として、下水道インフラ分野と日本政府との距離は一気に縮まると考えます。(4)全国の下水道インフラ一括マネジメントへ 上記の下水道関連情報の一元化・プラットフォーム化・オープン化により、全国の下水道インフラの効率的一括マネジメントが実施できる可能性があります。それにより、下水道インフラのマネジメントコストは大きく下がり、生産性も大きく向上するでしょう。これこそ、「国民第一・市民第一」の下水道マネジメントです。こうした状況の下でも、生産性の大きな向上により、企業は、着実に利益を生み出せると考えます。体の執行体制の厳しさ、ストックの老朽化、官民連携・広域化共同化の動き、働き手の不足と働き方改革、急速なデジタル化・グローバル化と技術革新等です。かつての3年、5年とは違います。機動的な対応が望まれるところです。水道インフラ分野では、昨年12月の「水道法の大改正」で、大きな動きが出ており、水道界が活気に満ちています。下水道行財政の根幹を担う上記3点の見直し・改正に速やかに着手してほしいと思います。(7)その他追記 東京オリンピックまで1年を切った中、トライアスロン会場となるお台場の合流式下水道越流水起因の水質汚濁問題が注目を浴びています。これについて、下水道サイドにおいても、1年の中で何ができるかを早急に議論し、できる対策について、今からでも、少しでも対応することが重要と考えます。そうすることにより、下水道インフラへの評価は、高まり、また、大会の「レガシー」になるかもしれません。 以上、令和時代の下水道インフラ未来戦略について、述べました。世界を視野に入れた未来戦略を構築し、下水道インフラの世界から日本の成長戦略の一角を提示・実現し、かつてのように強い世界競争力を持った輝ける日本を取り戻したいものです。

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る