イラスト:PIXTA下水道の散歩道株式会社NJS 取締役技師長 開発本部長[第3回]第3種郵便物認可 第1858号 平成29年12月19日(火)発行(35)「データドリブンマネジメント」と「プロセスシミュレータ・AI・IoTの活用」谷戸 善彦1.「データドリブンマネジメント」 今から40年前、新入職員として入省したばかりの建設省本省下水道部において、「さすがに建設省はすばらしい。先輩方はすごい」と驚きの経験をしました。第4次下水道整備五箇年計画(昭和51~55年度 五箇年総投資額7.5兆円)に係る大蔵省への予算要求書の要求根拠策定でした。上司は、久保赳下水道部長・井前勝人下水道事業課長・浦田健一係長・冨澤健二係長。事実上の総括指揮をされていたのは、浦田係長でした。何に驚いたか。それは、「データドリブンマネジメント」です。徹底した膨大なデータ収集とそのデータに基づくオリジナルで緻密なデータ分析です。「データを根拠としたデータに基づく資料策定・予算要求」、まさに「データドリブンマネジメント」でした。 五箇年間の全国の下水道事業費所要額を算出するにあたり、「当時、全国で水質悪化が進行し、かなりの水域で未達成であった水質環境基準を全国で100%達成するのにいくらかかるか」を全国のすべての河川水系ごとに算出、膨大な根拠資料を作り上げ、大蔵省に持ち込みました。その数年前に、流域別下水道整備総合計画(いわゆる流総計画)が下水道法に位置付けられ、「流総計画策定指針」が出来上がっていましたが、流総計画が打ち出されて数年、出来上がって承認された流総計画はひとつもありませんでした。しかし、計算手法は提示されていたので、それをベースに、建設省で独自に、膨大なデータを公共団体等から集めて、自らで流総計画全国版を策定したのです。パソコンもない中、2ヵ月かかりましたが、汚濁負荷量算出・汚濁負荷量配分・流達率想定・整備事業費費用関数設定等、大胆な仮定を置きながらも、数百ページに及ぶ実に緻密な資料を数人で作り上げました。水質環境基準達成のための所要額の他、公害防止計画達成の所要額等、根拠数値を積み上げ、大蔵省に五箇年計画の予算要求をしました。 その根拠資料が功を奏したのか、五箇年計画は、第3次の2.6兆円から、第4次は7.5兆円と飛躍的に増大し、その後の下水道インフラの大きな発展に繋がりました。その後、私は、第6次以外、すべての五箇年計画の策定に携わりましたが(係長時代第5次策定、課長補佐時代第7次策定、専門官時代第8次策定、課長・部長時代社会資本整備重点計画策定)、この第4次の経験が、その後、大きな糧となりました。常に、「データドリブンマネジメント」を意識しました。当時、他の社会インフラの予算要求資料の中で、下水道のように、「なぜ、これだけの予算所要額がいるのか」を理論的に証明して要求したものはありませんでした。「流総計画」という考え方も含め、下水道分野は、一歩も二歩も先を走っていました。 それから40年、名実ともに、「データドリブンマネジメント」が本格的に実行できる時代がやってきました。そのための人材・予算・システム・ツール・データ蓄積、言い換えれば、ヒト・カネ・モノが整いました。2. 「プロセスシミュレータ」・「AI」・「IoT」の活用 現在、強く下水道インフラマネジメントの最適化が求められています。ICTをフルに活用しての、①下水道維持管理マネジメントの効率化・コストスリム化、②改築更新タイミングの最適化によるコストスリム化(ストックマネジメント)、③現行維持管理の分析による本格的改築更新時の計画・設計諸元の最適化。 こうした要請に応えるためには、データドリブンマネジメントの考えに基づく「IoT 等による下水道インフラ関連ビッグデータの体系的収集と公開」、「ビッグデータを使用しての水・汚泥処理プロセスシミュレータの活用」、「ビッグデータ分析におけるAIの活用」が必須です。 株式会社NJSでは、本年11月13日に、村上社長の主導の下、カナダのEnviroSim社と「水・汚泥処理プロセスシミュレータBioWin」の販売代理店契約を締結しました。維持管理の最適化、現行維持管理の分析による改築更新時設計諸元の最適化に大きな力を発揮する「プロセスシミュレータ」は、急速に進化しています。今後、下水道界における「データドリブンマネジメント」の強力な推進のために、こうしたプロセスシミュレータやAI・IoTの益々の活用が期待されるところです。
元のページ ../index.html#4