下水道の散歩道 第1-33回
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イラスト:PIXTA下水道の散歩道㈱NJS 取締役 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.官民連携の多様化に向けて 平成31年3月29日、高知県須崎市とNJS・四国ポンプセンター・日立造船中国工事・PFI推進機構・四国銀行の5社コンソーシアムの間で、「須崎市公共下水道施設等運営事業」に関する基本協定が締結されました。平成22年度に過疎市に指定された須崎市の下水道は、人口減少に起因する使用料収入減や職員の減少に加え、老朽化施設の改築や地震・津波・豪雨への備え等、多くの課題に直面しています。本運営事業は、「下水道分野でのコンセッションとして、浜松市に次いで第2号」という点で注目されていますが、「過疎地域における下水道インフラの官民連携に係る先導的モデル」として、新しい発想に立って、下水道事業の持続性を長期的に担保するための多くの取り組みが組み込まれています。本事業の特筆すべき諸点は以下です。① 一つの市の中で、コンセッション・包括委託(性能発注)・仕様発注を組み合わせた「ハイブリッドPPP」[第19回]第3種郵便物認可 第1891号 平成31年4月23日(火)発行(39)た地域にあった最適な事業方式の組み合わせを選定しています。② 公共下水道と公共下水道以外のインフラ管理業務を組み合わせた「バンドリング型事業」 「バンドリング」とは、複数のインフラ管理業務を組み合わせるもので、具体的には、維持管理地域の範囲が狭い特性を生かし、一人の担当者が、下水道と下水道以外のインフラ等の管理を合わせて受け持つことにより、生産性の向上・効率化を図るものです。従来の縦割り行政の打破ともいえます。 こうした新しい「仕組み」とともに、維持管理に「閉鎖性空間調査用ドローン」や「LPWA通信」といったイノベーション技術をフルに活用し、管理コストの削減を図ることとしています。 過疎地域における新しい発想の官民連携が、動き出そうとしています。 今後の官民連携は、多様な手法をハイブリッドに組み合わせて、最適な計画を策定していく時代に入るのではないでしょうか。2.「ソフト・イノベーション」  の推進 下水道インフラのサステイナブルな発展を考える時、私は、今、大きな転機にあると考えています。昭和45年の公害国会から50年、「令和」の時代とともに、「下水道インフラストック形成」の「第一ステージ」から、「下水道インフラのストック効果の持続的な発現・ストックの活用・最適マネジメント」が求められる「第二ステージ」へ突入しようとしています。サステイナブルな発展に向け、今、何をすべきか。私は、政策・法規・「『ハイブリッドPPP』・『バンドリング』による官民連携の多様化」と「ソフト・イノベーション」 下水道事業全体の事業企画と汚水管渠の維持管理はコンセッション方式で、処理場の維持管理は初期には包括委託で、5年後からはコンセッションで実施します。これは、国のB-DASHで設置した施設が市に引き渡された後、コンセッションで行うというものです。雨水ポンプ場と雨水管渠は、仕様委託です。これは、雨水系の特性を考慮した対応です。また、漁業集落排水施設関係の維持管理と不燃ごみ処理を行うクリーンセンターは、包括委託の予定です。こうし制度・組織・ソフト技術等、ソフト面における「ソフト・イノベーション」が必須と考えています。下水道インフラ分野における「ソフト・イノベーション」の具体例は、以下です。ⅰ.昨年12月の水道法改正で、水道法の目的が、従来の「水道の計画的な整備と水道事業の保護育成」から「水道の基盤の強化」に変わりました。これは、水道の将来を俯瞰した的確な改正だと思います。下水道法も、法目的に「健全な水循環の構築、資源の創出・活用」を追加するなど、骨太の改正が必要です。ⅱ.以前から述べている「下水道の改築更新の整備費用負担論の確立」が必要です。代替がきいたり、廃止可能であったりする社会インフラと違い、公衆衛生・水環境を通じ生命にも影響し、代替のきかない下水道インフラの改築・更新整備費用は他のインフラと違う考え方の整理が可能だと考えます。各方面の学者・各省庁・経済界・政界等をあげた幅広い議論を「下水道財政研究委員会」の復活の中、議論すべきと考えます。ⅲ.下水道インフラを担う中央省庁の組織のあり方論も各界をあげた組織で議論し、改革の検討を始める時期に来ていると思います。ⅳ.官民連携の推進にあたって、上で述べた「ハイブリッドPPPの採用」「バンドリングの活用」の他、ソフト面での今後の課題として、以下があります。「民間事業者がPPP事業で果たすべき成果・性能・品質等をPI(業務指標。パフォーマンス・インディケーター)としてあらかじめ設定し、それを評価し、業務改善に繋げていく、という考え方を標準化する。その場合の、PIの選定、PIの測定・チェック手法等を確立する」。ⅴ.下水道の維持管理・経営へのAIの導入、維持管理へのプロセスシュミレータの導入、センサー等を活用した全国の下水道インフラ全体のモニタリングと遠隔一括制御等ソフト・イノベーション技術の開発・展開。 こうした「ソフト・イノベーション」が、下水道インフラのサステイナブルな発展に繋がっていくことを心から期待しています。

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