第3種郵便物認可 第1877号 平成30年9月25日(火)発行(43)を受けた35箇所の下水処理施設においても、そのうち、24箇所においては、自家発電設備が設置されていたため、それにより対応し、長時間の停電にもかかわらず、水処理に大きな支障は出ませんでした。下水処理施設は全国の多くの市町村に広く存在し、耐震化・耐水化等の対応も進んできています。病院では、消防法と建築基準法の規定等により、自家発電設備の設置が進んできていますが、その能力は、最小限の照明・生命維持等、ぎりぎりの危機対応に対処できる範囲で、地域の健常者住民の受け入れ等は、その性格からもまず不可能でしょう。学校・公民館等公共施設でも、自家発電設備の設置は進んでいません。また、災害時への対応といっても、その費用効果から考えて、学校等が大きな支出をして、自家発電設備の設置を進めるのも議論のあるところでしょう。その点、すでに、自家発電設備の設置の進んでいる下水処理施設を現在よりもっと積極的に「広域避難拠点化」するのは、極めて合理的なことと考えます。 下水処理施設を、広域避難場所・拠点にするメリットは以下です。①全国のかなりの市町村にわたり、幅広く多数存在する、②中規模以上の下水処理施設は自家発電設備を有している、③その自家発電設備は、日ごろから、点検・保守が的確に行われており、緊急時、速やかに対応できる。重油の貯蔵も日ごろよりきちんと対応している、④下水処理施設には、貯水タンクもあり、水も確保されているケースが多い。また、コンパクトスケールの緊急用逆浸透膜装置等を備えておけば、処理水等、水は施設内にコンスタントに多く存在するため、飲料水に対応することも可能、⑤管理棟等を有しており、会議室等収容空間も少なくない、⑥下水処理施設の敷地が広いところが多く、敷地内に、併設して、広域避難拠点施設を新たに設置できる箇所も多い。処理施設の上部空間を利用できるところも相当数存在する、⑦第4回で紹介した下水処理施設の「防空壕化」ともセットで対応するとよいケースも少なくないと考えられる、⑧消化ガス等バイオマス発電施設・太陽光発電施設・落差工を使った小電力発電施設等を下水処理施設内に設置し、その蓄電施設を敷地内に設置しておくことにより、日ごろから電気を施設内に蓄えることが可能、⑧管理棟等は、3階以上の高さの建物も多く、耐震化が進んでおり、避難場所として、耐震性が確保できているケースが多い、⑩避難所で常に問題となる水洗トイレ対応が容易。 また、都市地域にある下水処理施設の場合、周辺で発生した火災により、下水処理施設が延焼に巻き込まれないよう、出入口にゲートシャワー等を設置するなど、本格的な防災拠点化を図るケースもありましょう。過去には、住宅地域の中にある下水処理施設に、防火樹林帯・水幕設備・ゲートシャワー・備蓄倉庫等を整備し、本格的な地域防災拠点とした川崎市の加瀬水処理センターの例があります。この加瀬水処理センターの上部の防災避難広場は、川崎市地域防災計画において、災害時の「緊急避難場所」として位置付けられています。3.下水処理施設等を自治体の広域避難拠点・防災拠点として、しっかり位置付けを このように、充実した自家発電施設を有する下水処理施設や大規模ポンプ施設を、広域避難拠点・防災拠点として、自治体の都市計画上また、地域防災計画上、きちんと位置付け、さらに防災対策施設の整備強化を図ることを本格的に実施すべきと考えます。下水道インフラを、防災対策インフラ・都市強靭化インフラとして、しっかりと位置付けるのです。平常時からも、下水処理施設は、電気・ガス・清浄な水等資源エネルギーを生み出す「都市のエネルギーステーション」としての大きなポテンシャルを有しており、現在、資源エネルギー創出への取り組みが全国の下水処理施設で進んでいます。その上に、非常時の「エネルギー確保対応防災ステーション」としての役割をも果たす「平常時非常時ハイブリッドエネルギーステーション」と位置付けるのです。もちろん、下水処理施設の中には、海岸線に近く津波被害の可能性のある処理施設や浸水被害の可能性等のある施設もあります。自治体の広域避難場所としての安全性・アクセス等、総合的な判断の中で、定めるべきことですが、内陸部の処理施設を中心に、もっと、積極的に地域防災計画に位置付けるべきと思います。津波に洗われる可能性のある海岸部の処理施設においても、近くに津波想定高より高い建物がない場合は、管理棟の高さが津波想定高以上であれば、処理施設を緊急避難場所に指定することも有効だと思います。最近のトレンドでは、津波対応として、「遠くの高台より、近くの高い頑丈な建物へ」と言われています。この点、下水処理施設は、津波想定エリアでも、有効なところも少なくないと思います。 大規模災害が頻発する今日、多くの利点・ポテンシャルを持った下水処理施設は、自治体の最重要拠点施設と位置付けられるべきでしょう。市民の生命・生活を守るその重要施設に対する、改築・増強・自家発電用重油タンクの拡充・さらなる耐震化耐水化の構築費用、防災対応に係る部分の維持管理費用等は、当然、公費特に国費の恒久的投入が妥当ではないでしょうか。昨今の下水道財源の在り方論における大きな考え方の一つとなると思います。国・自治体を挙げて、下水処理施設・大規模ポンプ施設等の広域避難拠点化・防災拠点化を法律等できちんと位置付け、条件に合った施設は、積極的に指定・整備を推進していくべきと考えます。
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