SEWグローバル・ウォーター・ナビ 相次ぐ台風被害を受け、災害に強いインフラの構築(強靭化)の論議が強まってきている。政府が定めた2020年までの「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(約120河川の堤防のかさ上げ、大規模停電の防止など。総事業費7兆円)の延長も含め、更なる恒久的な国土強靭化対策の積み上げが検討されている。中でも令和元年の台風19号による71河川140ヵ所の堤防決壊を受け、河川改修・治水に焦点が当てられているが、国民の日常生活を支える上下水道の強靭化にも更に力を入れるべきであろう。1.台風19号による上下水道施設の被害概要 令和元年の台風19号は、豪雨台風であった。10月6日にマリアナ諸島の東海上で発生し、日本に近づくにつれ勢力を増し、関東・甲信越地方、東北地方などで記録的な大雨になり甚大な被害をもたらした。最近の台風が日本に近づくにつれ勢力を増すのは、地球温暖化の影響とみられる海面水温の上昇である、台風上陸時の日本近海の海面水温は27~31℃であった。1)水道被害 14都県で94水道事業体が被害を受け最大断水被害は16万6千戸に(34)第1907号 令和元年12月3日(火)発行 及んだ。 浄水場や取水場の被害は15ヵ所に及び復旧までに多くの時間を要した。浸水被害を受けた浄水場15ヵ所のうち、自治体が定めるハザードマップ・浸水想定地域内に14浄水場が位置しており、電気系統の被害が多かった。福島県いわき市では市内最大能力を誇る「平浄水場」が水没し、一時4万5400戸が断水し機能回復まで2週間を要した。2)下水道被害 下水道では、下水処理場17ヵ所で浸水被害等による処理の機能停止が発生、ポンプ場では31ヵ所が浸水で運転停止、管路施設100ヵ所、マンホール104ヵ所で被害が発生した(国交省11月21日発表)。 国交省がまとめた台風19号による下水道被害額のうち、特に被害が大きかった福島県は174億7千万円、長野県は約518億円である。 政府はこの台風被害に対し、①激甚災害、②特定非常災害(いずれも台風被害では初の▲台風19号襲来時の日本近海の海面水温(10月9日) 出所:気象庁資料より適用)、さらに③大規模災害復興法(台風として2例目)を適用した。2.2020年までの「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」 政府は2018年12月14日の閣議決定により3ヵ年で総事業費7兆円、そのうち国費3~4兆円を投じる緊急対策を発表した。上下水道関係の緊急対策の概要を示す。1)水道事業 施設の停電・土砂・浸水・地震対策と基幹管路の耐震化を実施する。特に停電対策として、施設能力の大きい(日量5000m3超)、自然流下方式で運転できない浄水場139ヵ所に自家発電設備を設置する。また他の浄水場からバックアップ機能がない基幹浄水場で土砂災害警戒区域内に位置する94ヵ所に土砂流入防止壁を、浸水想定区域内に位置する147ヵ所に防水扉を設置する。加えて耐震化率を重要度の高い浄水場で3%、配水場で4%引き上げ、基幹管路については3年間で4600kmの耐震化を図る計画である。つまり耐震適合化率の上昇ベースを現在の1.5倍(年第3種郵便物認可国土強靭化、強まる災害対策~上下水道事業に更なる力を~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]55
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