SEWお物川せ瀬首工▲成瀬頭首工全景(筆者撮影)グローバル・ウォーター・ナビ雄物川の歴史と成瀬ダムをめぐるSDGs 雄は秋田県、山形県境の大仙山に源を発し、湯沢市、大仙市などを貫流し、秋田市を経て日本海に注ぐ、流路延長133km、流域面積4710km2の一級河川である。成なるダムは、雄物川水系成瀬川に建設中の多目的ダムである。なぜこの時期に新しいダムの建設なのか。成瀬ダムでは、今までのダム建設と異なり環境保全と地球温暖化防止(CO2削減)を重視し、現場周辺の岩石や砂利にセメントを混合してつくる日本独自開発のCSG(Cemented Sand and Gravel)工法を採用。なおかつ、世界初の建設機械の自動化施工技術を導入した、国内最大級の台形CSGダムである。 今回は、特定非営利活動法人である「日本水フォーラム」の特別企画、「雄物川の歴史と成瀬ダムをめぐるSDGs」と題した若い世代(東北地方の高校生・大学生)向けのエクスカーションに同行し、雄物川水系の頭とうと、世界に誇れるCSG工法の成瀬ダムを視察した。1.国営雄物川筋農業水利事業 秋田県は稲作(水稲)の生産力が極めて高く、作付け面積や収穫量とも全国の上位にランクされ、それを支えているのが雄物川の河川水である。昭和に入り、度重な(38)第1981号 令和4年11月15日(火)発行 ものがわしゅこうる水不足と洪水被害を解消すべく「国営雄物川筋農業水利事業」が実施された。 同事業は総事業費154億円、昭和21年度から昭和55年度まで35年の月日をかけた国家の一大プロジェクトであった。これにより雄物川水系の皆瀬・成瀬地区、旭川水系(現横手川)の旭川地区を合わせ1万4千町歩の農地が干ばつ、洪水被害から解放された。1)成瀬・頭首工(とうしゅこう) 頭首工とは、耳慣れない用語であったが、今年5月に発生した愛知県の明治用水頭首工の漏水事故によって、多くの国民に知られるようになった。頭首工とは、「河川や沼から用水を水路に引き入れるための施設で、通常は取り入れ口と取水堰、および管理施設から成る」と定義されている。なぜ頭と首なのか? つまり後段に続く灌漑用水システムの先端施設として、頭首工と呼ばれている。 成瀬頭首工(横手市増田町)は、今から50年前、この周辺に点在していた4ヵ所の旧堰を統合して造られた。川幅約70mにわたり成瀬川を堰き止め、水田約1500haに灌漑用水を供給している。2)秋田県内農業産出額 農林水産省の統計「令和元年秋田県内市町村別農業産出額(推計)」によると、県内25市町村の中で第一位が横手市で約296億円(このうちコメの産出額114億円)、第二位が大仙市で約237億円(同166億円)であり、頭首工からの灌漑用水が地域の経済効果を大きく支えている。2.成瀬ダム……国内最大級のCSGダム 現在の横手市を含む稲作の盛んな地域は平鹿平野と呼ばれ、雄物川の水や湧水を利用していたが、干ばつに悩まされた。江戸時代の豪農は力を合わせ、灌漑用水路を整備してきたが、自然界の猛威にはかなわなかった。 近代の雄物川水系では、「少なすぎる水」として昭和48年、平成元年、平成6年をはじめ、夏場を中心に上水道や農業用水の取水ができなくなるなどの渇水被害が、概ね3年に一度の頻度で発生していた。逆に「多すぎる水」として明治27年、昭和19年、昭和22年には戦後最大の洪水が発生し、流域面積の約6割が浸水するなど大規模な浸水被害が頻発していた。 このような水の被害を繰り返さないために昭和58年、秋田県により成瀬ダム実施計画調査が始まり、平成3年度には国の直轄事業に移行。成瀬ダムは「多目的ダム」(洪水対策、水量調整、農業用水、水道用水、発電用水)として、平成9年度に建設事業に着手した。令第3種郵便物認可~世界に誇れるCSGダム建設中~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]89
元のページ ../index.html#85