▲ドニエプル川の水力発電所(著作者:Carport - 投稿者自身による著作物, CC BY-SA 3.0/一部、筆者が日本語加筆)第3種郵便物認可 2)制水権争い 豊富な水資源で国家を支えてきたウクライナにとり、破壊された貯水池や灌漑施設をいかに早く復旧させるかが、国家の命運である。逆にロシア側にとっては、クリミアに駐留する部隊へ給水する北クリミア運河のあるヘルソン州をいかに奪還し、支配下に置き制水権を確保するか。また水力発電所を破壊し、原発を抑えることが勝利への命運である。まさに「水の確保は国家の存亡なり」と言えよう。電線、浄水場、貯水池などをミサイルで次々と破壊、その結果ウクライナ全土で約460万人が安全な水道水を入手できなくなり、衛生状態が悪化し、乳幼児の死亡率が20倍になった(ユニセフの報告)。農業用水路やポンプ場も破壊され、次年度の作付けが不可能な状態であり、将来の国際穀物相場に大きな影響を与えることが危惧されている。4.水道復旧に関する国際援助 ユニセフは緊急援助として発電機や液化塩素(消毒殺菌用)を支援し、約140万人の飲料水を確保できた。また赤十字国際委員会は、ウクライナ東部ドネツク州のドンバス地方で水道施設のリハビリ、井戸の掘削や水処理薬品を継続的に支援している。 日本側からの水道支援としては、横浜市がウクライナの姉妹都市オデーサ市(港湾都市)へ緊急支援物資として、移動式浄水装置33台や自家発電装置31台を供与している。また、知られていない日本政府の水関連支援は「キエフ市の下水処理場改修プロジェクト」である。同市の下水道は旧ソ連時代に整備が進められたが、老朽化が激しく、2013年に国際協力機構(JICA)による調査が開始され、2015年に円借款による事業が始まっている。参考までに外務省の『開発協力白書』を見ると、ウクライナ向け主要ドナー国別の経済協力実績で2016年は日本がトップドナー(350百万ドル)であったが、2017年は米国、2018、2019年はドイツに抜かれている。5.原発攻撃と水問題 マスコミ報道では、ロシアによる核兵器の使用と原発攻撃問題が大きな話題となっているが、福島原発の除染作業や原子炉の循環水からの放射能除去(ラドデミ)に従事したことのある筆者にとり、別の見方もある。 北クリミア運河の上流にはザポリージャ原発があり、仮にこの原発が破壊されると漏れ出した放射性廃液がクリミア運河を汚染し、確保した取水口を通りクリミア半島に流入する。自ら首を絞める事態 第1980号 令和4年11月1日(火)発行(39)になることを恐れ、原発を守るために駐留しているのかもしれない。 また2月の首都キーウ侵攻の際、ロシア軍はチェルノブイリ原発を占拠した。もし破壊されたら、ロシア軍部隊が、放射能汚染で、まったくキーウに侵攻不可能になる。むしろ原発をロシア管理下に置くことにより、占領後の経済復興を考えたのかもしれない。核兵器の使用も同じで、将来、ウクライナを占領し、そこから経済的な利益を得る目的なら、絶対に原発攻撃や核兵器の使用に踏み切らないであろう。両方とも、脅しとして最強の兵器であろう。しかし狂気に満ちた指導者の行動は誰にも推察できないことは歴史が証明している。さいごに その昔から、人類や国との争いの陰には水問題(制水権)が介在していることを忘れてはならない。一刻も早くウクライナ侵攻を止めることが、日本を含む国際社会の使命と考えている。
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