▲ ドニエプル川の流域図。総延長:2290km、下流川幅:3km。○印は堰および取水口(出所:同。一部、筆者が日本語加筆)3.やったらやり返す……クリミア水戦争 2014年2月27日、ロシア軍によるクリミア侵攻が起きた後に、ウクライナ側は北クリミア運河を堰き止めてクリミア半島(面積2万6千km2、福島県の約2倍)への水供給を遮断した。その結果、ロシア軍が駐留するクリミア半島は水不足に陥った。クリミア半島と(38)第1980号 令和4年11月1日(火)発行 1)ダムの水は最大の防御武器 ウクライナ軍はロシア軍の侵攻防御作戦で、首都キーウに通ずる橋をことごとく破壊したのだが、最大の防御は、キーウ北部のデミディフ村の住民が、発電用のダムの水門と堤防を破壊し緊急放流し、自村を完全に水没させた。なぜ意図的にダムを破壊し放流したのか。勿論ロシアの戦車隊から首都侵攻を防ぐことにあったが、現地のウクライナ軍に首都防衛配備の準備時間を与えるためでもあった。 緊急放流の結果、首都に通ずる道路や農地は泥で埋まり、低地は沼地と化した。ロシアの戦車隊(T-64は重量36~42t、T-90は46.5t、T-95は50t)はぬかるみにはまり、侵攻不可能となった。勿論、う回路を探したが結局、発見できず、3月下旬にはこの地から撤退、戦車隊を含む師団は、東部のドンバス地方に移動したのであった。つまりウクライナにとり、ダムからの緊急放流が最初で最大の防御武器であった。緊急放流から2ヵ月後も、村には洪水の影響が残っていたが、村民の表情は明るかった。デミディフ村の住民は、ロシア軍による村の殺戮を防いだだけでなく首都キーウを守った民としてウクライナ国民から称賛されている。言ってもウクライナと繋がっている陸地は腐敗干潟(スィヴァーシュ)が広がっており、いわば島に近い状態であり、常に水不足に直面し、淡水の水需要の約8割を北クリミア運河(ドニエプル川)に依存してきた。もともとクリミア半島には、住民が暮らせるだけの沼地や井戸があったが、ロシア駐留部隊、例えばロシア軍の誇る「第56独立親衛空中襲撃旅団」(アフガン侵攻、チェチェン戦争の先導役で活躍、推定兵力2万から5万兵)および弾薬庫建設部隊や補給部隊が集結した結果、大量の水が必要になり、ウクライナ側により水供給が遮断された。国際法に違反しクリミアに侵攻したロシア 1)ロシア軍の反撃 2022年2月24日のウクライナ侵攻開始で、真っ先にロシア軍はクリミア半島から北上し、北クリミア運河にある、ウクライナ側が構築した堤防を破壊しクリミア半島への水を確保した。これが、最初の華々しい戦果であった。さらにロシア軍は侵攻後クリミア水路に繋がるダム(貯水、発電用)や送側は、クリミア半島に居住する住民の命を守る水資源を止めることは、「国際人道法に反する暴挙」と非難したが、ウクライナ側は、「どちらが国際人道法違反か、よく考えてみろ!」と一蹴していた(2014年3月)。第3種郵便物認可
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