SEWグローバル・ウォーター・ナビ ロシアのウクライナ侵攻は、国際秩序に大きな影響を与えている。国連の安全保障理事会(安保理)の常任理事国で、核保有国であるロシアが19万の兵力を持ってウクライナに侵攻(2022年2月)。これは武力による侵略であり、明らかに国際法に違反する行為である。しかも国連安保理の「ロシアが侵攻したウクライナ4州を併合する試みを非難し、領土変更を認めず、即時撤退を求める」決議案はロシアの拒否権行使で否決された(9月30日)。 毎日のようにロシアとウクライナ軍との軍事的攻防は伝えられているが、ほとんど報道されていないのが、ウクライナとロシアとの国家の命運をかけた制水権・争奪戦の現状である。1.ウクライナの水資源 ウクライナの国土(約60万km2、日本の約1.6倍)は、豊富な水資源に恵まれている。「欧州の穀倉地帯」と呼ばれるほど広大で肥沃な黒土を保有しており、産出されるひまわり油は世界第一位でトウモロコシと大麦は世界第三位、小麦は世界第六位と言われ、国民の2割が農業に従事し、輸出総額の約3割を穀物が占めている。これを支えている水資源は、森林・ス第3種郵便物認可 テップ気候で、年間降水量は1200~1700mm(日本は平均1700mm)であり、北部の山岳地区から国内を縦断するドニエプル川(河川長2290km)、ドニエストル川(同1362km)、デスナ川(同1130km)などの本流とその支流により全土▲1986年から整備されたドニエプル川の貯水システム(出所:「WATER RESOURCES OF UKRAINE. STATE AND PERSPECTS OF USE」Peter Kovalenko, UNAAS, Vice-president of ICID/一部、筆者が日本語加筆)第1980号 令和4年11月1日(火)発行(37)にくまなく配水されている。つまり豊富な水資源がウクライナ経済を支えている。2.水は最大の防御兵器である ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日に開始された。二日後には首都キーウ(キエフ)から北方約20kmに位置するオボロン地区にロシア大戦車隊がすばやく侵攻、近郊のホストメル空港もロシア軍に掌握され、地上部隊とヘリコプター200機が動員配備された。 世界中のマスコミが首都キーウ陥落は短期決戦、時間の問題か? と報道している中、突然ロシア軍の侵攻が止まった。ウクライナ侵攻、ロシアとの制水権争奪戦吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]88
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