SEWグローバル・ウォーター・ナビ 地球温暖化の影響による気候変動で、世界中で「干ばつと洪水」が頻発している。干ばつや洪水の被害は、毎日のように報じられているが、それらが、どのように人間社会や経済活動、さらに農業等に影響を及ぼしているか、数値を持って報じられている例は少ない。今回、欧州委員会(EU)の監督する「欧州干ばつ観測所(EDO)」が2022年8月の速報・報告書として、詳細な分析数値を示しているので、紹介したい。1. 欧州大陸、過去500年で最悪の干ばつに直面 年初以来、欧州の国家・地域に重大な影響を与えている深刻な干ばつ被害は、欧州大陸の47%に達し警戒態勢に直面している。その原因の一つは北極側から欧州に流れる気流の温度が例年より高く、またサハラ砂漠側からの熱波も影響していると見られている。また目に見える水資源だけではなく、土壌も明確な水分不足であり、欧州大陸17%の植生が影響を受ける警戒状態になっている。 現在の気象予報では、欧州大陸のみならず、地中海沿岸地域は本年11月まで、平年より暖かく乾燥する可能性が高いと報じられている。(32)第1977号 令和4年9月20日(火)発行 1)欧州の農作物被害 2022年の穀物としてトウモロコシの収量は、過去5年間の平均を16%下回り、大豆とヒマワリの収量は、それぞれ15%と12%減少する見込みである。2)国際河川を利用した内陸輸送 国際河川の低い水位は、大型輸送船(ばら積み船)が航行不可能となり、舟運が妨げられ、特に石炭や石油輸送、穀物輸送等に影響を与えている。3)発電事業に重大な影響 欧州の火力発電所や原子力発電所は、ライン川やドナウ川のような河川水を使い、タービンを回した蒸気を冷却し、循環使用しているが、まず河川水量の不足があり、さらに河川水の水温上昇にて冷却効果が減少し、発電能力が30%以上減少している。原子力発電大国のフランスでは、原発56基のうち、約半数が機能停止している。4)排水の再利用 仏・モンペリエ大学の調査によると、フランスの排水再利用率は1%未満で欧州で最悪、イタリアは8%、スペインは14%に▲ 欧州干ばつ地図(出所:欧州干ばつ観測所(EDO)Webサイト https://edo.jrc.ec.europa.eu)1)ドイツ スイスを源流に持ちドイツを経てオランダに流れるライン川(総延長1233km)はドイツ国内で698kmの流路で、「父なる川」と呼ばれ歴史的にドイツ経済を支えてきた。しかし現在、フランクフルト付近の水位の低下が著しく、通常は1.5メートルの水深で安全に航行できる大型船が危険な状態になり、食糧や燃料の運搬が停滞している。特に懸念されるのは、ロシアが供給を絞ったり停止したりしている天然ガスの代替として石炭が注目されているが、水位の低下でライン川沿いの火力発電所に石炭を運搬できない可能性が示唆されている。近隣各国から電力を輸入しているドイツでは、夏のピーク時の電力費は通年の8倍を記録した。2)フランス フランス電力公社(EDF)は、ロワール川(総延長1003km)、マース川(同925km)、ローヌ川(同814km)の水量が減り、また川の過ぎない。一方、常に水不足に直面しているイスラエルは、水の再利用の真のパイオニアであり排水の80%を再利用している。2.欧州各国の干ばつ被害状況第3種郵便物認可欧州大陸、過去500年で最悪の干ばつに直面吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]87
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