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SEWかし疵グローバル・ウォーター・ナビ 過去の水害訴訟では、大阪府大東市の浸水被害をめぐる「大阪大東水害訴訟」の最高裁判決(1984年)を契機に、行政側(国や自治体)の責任を限定的に解釈し、この基準となり、被れが行政の瑕災した住民側に不利な司法判断が続く流れとなっていた。想定を超えた洪水による被害では、国の責任を問えない風潮が続いていた。 今回取り上げる鬼怒川水害訴訟で水戸地方裁判所は、一部ではあるが国の河川管理(治水)としての責任を明確にし、原告に賠償金を支払うように命じ、極めて異例な判決を下した。また、通常の裁判では原告、被告の言い分(主張)を裁判所(書面と対面)で闘わせ、裁判長がその是非を判断するのが通常であるが、鬼怒川水害訴訟では裁判長を含む裁判官3人が自ら被災地の現地視察を行うなど、流れが変わってきている。最近の線状降水帯の頻発による数多くの洪水被害(下水道の内水氾濫を含む)に対し、管理者として国や自治体の責任の在り方が大きく問われることになると同時(38)第1975号 令和4年8月23日(火)発行 ▲鬼怒川堤防の決壊(出所:国土交通省関東地方整備局資料を一部加工、2015年9月10日撮影)に、水インフラ整備(下水道の雨水排除などを含む)にかかる膨大な費用をどのように捻出し、誰が負担するかが問われる時代に突入してきている。1.鬼怒川の水害状況について 2015年9月10日、関東・東北豪雨では、発達した積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」が発生し、上流で記録的な豪雨となり、鬼怒川が氾濫。茨城県常総市で堤防が決壊するなど大きな被害が出た。常総市の約三分の一が水没し、逃げ遅れて救助された住民は4千人を超え、住宅地ではおよそ1万戸が水に浸かり、さらに1週間以上の浸水が続き、断水、停電も重なり生活への影響も甚大であった。1)鬼怒川の水害は、国の責任である(水戸地方裁判所) 関東・東北豪雨で鬼怒川の堤防▲居住地での氾濫水の状況(出所:鬼怒川堤防調査委員会報告書、平成28年3月)が決壊して大規模な水害が発生し、被災した茨城県常総市の住民ら約30人が、国を相手に約3億5870万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2022年7月22日、水戸地裁であった。阿部雅彦裁判長は、国の責任を一部認め、原告9人に対し約3900万円を支払うように国に命じた。水害に関する訴訟で国の河川管理の責任が明確に認定されるのは、極めて異例である。 訴訟では、水害が発生した常総市の2地区(若宮戸地区、上三坂地区)について、国の河川管理や堤防の改修計画に問題がなかったのかどうかが争われた。阿部裁判長は、若宮戸地区では、治水で重要な堤防の役割を果たしていた砂丘を河川区域に指定しなかったために、民間会社(メガソーラー開発業者)による砂丘掘削を招き、堤防決壊の上、水害につながったと判断した。その上で「国が河川区域に指定して、民間会社の砂丘掘削を妨げていれば、浸水被害は相当程度小さくなっていた。国の河川管理に瑕疵があったと認められる」と結論付けた。水害前年の2014年7月、近隣住民らは危険を察知し、常総市議会に働きかけ国交省に「洪水の危険性が極めて高い、若宮戸地区の早期築堤を求める」という要望書を出していた。国の責任が第3種郵便物認可水害被害に関する訴訟、国が敗訴~鬼怒川水害訴訟~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]86

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