5.有識者の意見……県外への流出量は微量 2021年2月の国土交通省の有識者会議で、水循環の第一人者、沖大幹東大教授(水文学)は、トンネル工事で県外へ流出する水量(最大で500万m3)について「非常に微々たる値でしかない可能性がある」と指摘した。その理由として上流の神座地区の河川水量は平均19億m3だが、その変動幅はプラスマイナス9億m3もある。変動幅9億m3に対し県外流出する量が最大500万m3とすると、変動幅の0.55%と極めてわずかであり、リニア工事による県外流出量は、県内の変動幅に完全に吸収されてしまう値であると説明した。 さらに沖教授は「静岡県は、リニア工事による県外流出量を大きな問題としているが、利水安定のための変動幅約9億m3もの水を、自らコントロールする対策に取り組んでいない」と県の姿勢を指摘した。だが、この国の有識者会議の意見も川勝知事から「中立性が疑われる」と、門前払いにあっている。 長年、河川工学に取り組んできた、ある有識者によると「静岡県が指摘するような、流出問題が実際に発生するのか、極めて疑問である」という。「山岳トンネルや海底トンネルを掘ると湧水が出るが、その湧水は短期間で止まり、あとはチョロチョロとしか出てこない。最初は、その地層に溜まっている水や、破砕帯を通じて水圧に応じた湧水がある。これは事実だが、延々と湧水は続きません。山を構成する岩には、非常に狭い亀裂(クラック)があり、その狭い空間を地下水が流れてきます。この流れ▲ 大井川流域の8市2町(静岡県 リニア中央新幹線建設に係る大井川水問題の現状・静岡県の対応(第3版2020年1月24日)P.6抜粋。出所:同)第3種郵便物認可 に応じ、粘性摩擦抵抗が働き湧水がコントロールされ、時には湧水が止まります。地下水理学では、これを『損失水頭』と呼んでいます」。日本国内には1万ヵ所以上のトンネルがあるが、「工事完成後は殆どが染み出す程度の湧水であろう」と語っている。さいごに 水に関するさまざまな問題は人命に直接かかわるだけに、感情が直接反映しやすい傾向がある。リ 第1972号 令和4年7月12日(火)発行(39)ニア新幹線沿線の自治体は静岡県を除き、早期建設を望んでいるが、今後、川勝知事が経済学者(専門は比較経済史)としてのリニア新幹線・湧水水戻し問題についてどう取り組むのか、その際、水文学や河川工学の専門家達の意見にどの位耳を傾けるのか、が注目されている。掘ってみなければわからない湧水問題であるが、感情に流されず冷静に論議すべきであろう。
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