SEW関係グローバル・ウォーター・ナビ 2015年、JR東海がリニア新幹線の路線予定図を示した時から、静岡県の川勝平太知事は「南アルプス横断トンネルで大井川が涸れる」「大井川の水は、静岡県民の命の水だ、水一滴たりとも県外には渡さない」と強硬にJR東海が示してきた案をことごとく、否定してきた。具体的に国交省案については「中立性が疑われる、専門委員にも偏りがある」「JR東海の全量水戻し案は全く信用できない」「減水に対し科学的根拠がない」、さらには身内の難波喬司副知事(元国土交通技官、工学博士)がJR東海の見解に歩み寄りを見せてきた途端に事務方トップの難波副知事を解任するなど、対話が始まった2017年以降、全て「ちゃぶ台返し」で応対してきた。 ところが2022年5月12日、JR東海が示した「リニアの水・全量戻し」案に対し、一転して「具体案は検討に値する」として歩み寄りを見せ、さらに県の6月定例会見で川勝知事は「リニア沿線自治体で組織される期成同盟会への加盟申請を行っ第3種郵便物認可 ▲リニア中央新幹線の概要(出所:第1回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議 配布資料)た」と報告。さらに「私は昔からリニア建設には賛成」だったとコメント、賛成の理由を問われると「『のぞみ』の機能がリニアに移ると、逆に「『ひかり』と『こだま』の本数が増える、リニアの全線開通に反対する理由がない」、さらには「飯田にリニア駅ができると、南信の拠点、住民の東京に出たいという気持ちは痛いほど分かっておりますから、賛成だ」と、あまりにも君子豹変した川勝知事の態度にリニア関係者から驚きの声が挙がっている。東海道新幹線が止まる駅数は、静岡県内が6駅で最多で、経済効果を狙ったのであろうか、今後の成り行きが注目されている。1.リニア新幹線と静岡県との第1972号 令和4年7月12日(火)発行(37) リニア新幹線は時速約500kmで東京から名古屋までを結ぶ、全長286kmの経路で約8割が地下トンネルとなっている。静岡県内の路線延長は8.9kmで2ヵ所に非常地上出口を設置する計画である。静岡県内の土被り(地表面からトンネル天井までの垂直距離)は最大1400m(これまでの国内トンネル工事で最大の土どかぶり被り)、最小350mである。 リニアトンネル掘削による大井川の減水対策については、関係者、有識者会議等で過去数十回にわたる論議がなされているが、水掛け論の応酬であった。2.トンネル工事による減水量 減水量をみてみよう。JR東海が示した「環境影響評価準備書」には「覆工コンクリート等がない条件で、最大で毎秒2m3の減水が予測される」とある。ところが現代のトンネル工事の現場では、先行探査ボーリングで地層を確認しながら掘削し、漏水圧力が強くなると、即薬液注入し地層を固め、または覆工コンクリートのような防水工事を施工するので、大量の出水は考えにくい。素掘り状態で何も対策しなければ最大毎秒2m3の水が失われる、とあるが防水対策リニア新幹線、大井川の水戻し論争吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]85
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