2)外資による水源地買収問題 2000年以降、外国資本(外資)による森林資源の買収の報道が相次ぎ、農林水産省は2010年以降、「外国資本による森林買収に関する調査」を毎年実施し、その結果を発表している。それによると、たとえば2018年の一年間で30件、373haの森林が外資に買収されており、そのうち13件が中国人または中国系法人である。なかでも北海道の倶知安町では、買収された17haの森林の利用目的を「未定」としており、「水源確保」などを表記していない。農林水産省が2021年8月に公表した同調査の最新版によると、外資による2006年から2020年までの買収事例累計は278件、2376haとなっている。(1)公益より私的権利が強すぎる 大きな問題は、日本の民法207条では「土地の所有権は、法令の範囲内において、その土地の上下に及ぶ」とあり、土地を買収した所有者は、土地の上の森林資源は勿論、土地の下の地下水の権利まで保有することができ、公益より私的権利が強すぎることである。(2)外資から水源地を守る法律がない 法的な問題点として、日本の山林は外国人が誰でも買える、世界でも珍しい国である。また、このような買収に共通するのは、ダミーや仲介者が二重三重に存在し、本当の所有者が不明で転売されても追及できないことである。 また、河川法では「流水は私権の目的としてはいけない」と規定されているが、水源地のほとんどは、河川法の適用を受けない「法定外公共物・普通河川」であり、かつ地下水や雨水を取り締まる法律が無いことも問題である。従っ■外資(居住地が海外にある外国法人または外国人と思われる者)による森林買収の事例(2006(平成18)~2020(令和2)年)出所:農林水産省「外国資本による森林買収に関する調査の結果」(2021年8月)第3種郵便物認可 て多くの自治体は、条例で対処している。2018年に国土交通省水管理・国土保全局は「地下水関係条例の調査結果」を公表、47都道府県で80条例、地方公共団体で740条例を制定していることが明らかになった。しかし条例の中身をみると、水源、水質、地下水の涵養が大半で、所有権に関する条例は少ない。もちろん罰則規定(懲役や罰金など)の規定があるものの、国が定めた法律ではない。自治体が定めた条例による罰則規定が外国資本から日本の水源地を守れるかが、疑問視されている。 法律として「水循環基本法」の一部改正(2021年6月)が施行され、「地下水の適正な保全及び利用都道府県北海道小樽市釧路市苫小牧市砂川市富良野市伊達市蘭越町ニセコ町真狩村留寿都村喜茂別町倶知安町共和町赤井川村月形町美瑛町上富良野町壮瞥町洞爺湖町初山別村清水町足寄町弟子屈町小計大崎市米沢市いわき市那須塩原市嬬恋村長野原町小計佐倉市宮城県山形県福島県栃木県群馬県千葉県神奈川県横須賀市伊勢原市箱根町市町村件数 第1970号 令和4年6月14日(火)発行(31)森林面積(ha)都道府県真鶴町小計加賀市山中湖村富士河口湖町小計軽井沢町白馬村小計熱海市新城市大津市京丹波町京都市小計神戸市姫路市上郡町小計奈良県宇陀市和歌山県田辺市岡山県福岡県11111051612922121271062014586294135510.87033511631111254822639241153415213111,804221211011901114410.124410.210.0620.41311石川県山梨県長野県静岡県愛知県滋賀県京都府兵庫県大分県沖縄県総件数に関する施策」が規定されたが、その目的は、①地下水は地方自治体の境界を越えて流動するものであり、関係者の協議の場が必要である、②地下水のマネジメントを一層推進する―が主目的であり、水源地の所有権の問題には、触れていない。 さらに2021年6月に「重要土地利用規制法」が国会で成立、それによると政府が規制対象とする土地は、①防衛施設、②重要インフラ(原発、空港)、③国境やその周辺の離島であり、水源地は含まれていない。 水源地は、国民の命を守る国家の安全保障と位置づけ、法体系をしっかりと築くべきであろう。森林面積(ha)市町村件数21171310.51120.6321151271210.510.0719411263121118114032601121鏡野町・津山市14810.004北九州市41直方市1福津市5520.3糸島市小計5601由布市310.7石垣市31名護市21大宜味村51今帰仁村小計4102,376278
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