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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 日本の汚水処理率は92%に達し、世界でもトップクラスの衛生的な国になっている。 衛生的な国を支えてきた汚水処理の内訳をみると下水道で約1億人(78.8%)、浄化槽1175万人(9.2%)、農集排等344万人(2.7%)、コミプラ21万人(0.2%)である。しかし、この汚水処理インフラシステムも、今や危険水域に達している。上下水道を含む水インフラの共通課題は、①人口減少、節水機器の普及による料金収入・使用料収入の減少、②普及した施設の老朽化、③職員の減少、特に技術職員の不足などであり、3重苦(カネ、モノ、ヒトの不足)に直面している。 下水道においての緊急課題は、①老朽化施設の改築更新、②浸水対策、③合流式下水道の改善などであり、近未来の技術開発の方向性(省エネ下水道、下水道資源活用の最大化、人口減少下で持続可能な下水処理システム開発)とマッチングさせながら課題解決を図ることが求められている。しかしながら下水道事業の現状は極めて厳しい状況にある。日本政策投資銀行のレポート「わが国下水道事業 経営の現状と課題」(2016年61.下水処理の将来性月発行)で公共下水道1171事業者を分析した結果では、次のように指摘している。 ①雨水処理は公費(一般会計など)で汚水処理は私費(使用料)で負担する原則となっているが、実際に使用料対象経費のすべてを料金でまかなっている事業者は全体の約8%にとどまっている。従って下水道事業は収益的(損益的)には、一般会計繰入金制度で事業を維持していると言えよう。②下水道事業は、接続率(水洗化率)が上昇し経営が安定するまで長期を要する事業構造(1haあたり人口密度が50人以上でも繰入前営業キャッシュフローが黒字化するまで20年程度を要す)であり、加えて③上水道と比べ楽観視できない高い有利子負債の水準、④下水道類似施設を含めた最適な方式での汚水処理の普及、⑤使用料減少下で防災(内水氾濫)強化、不明水問題、職員減少への対応、さらに⑥事業者間の料金格差など多くの問題を抱えている。1) 下水道事業の将来は……都市 国土交通省や下水道関係者は公共インフラとして下水道を持続可能にする努力を懸命にしているが、国会審議を見ても、大幅な財政支援は望めない状態である。ではどに集中投資を(34)第1905号 令和元年11月5日(火)発行 うしたら良いのか。私的な提案であるが、これからの下水道は広域化・共同化を進める必要があるが、その基準値として計画地域の人口密度100人/ha、つまり都市型地域に集中投資する方針転換が必要であろう。雨水の排除はもちろんのこと、汚水処理は省エネ化、汚泥処理は資源化を目指すべきである。一方、人口密度の少ない地域の汚水処理は合併浄化槽や農集排に役割を持たせ、これらも当然、将来の人口密度の消長により事業継続、ダウンサイジングや廃止を考えるべきであろう。 国内人口は2050年に9500万人(人口ピーク時から36%減)、2100年には6400万人(同50%減)となる推計が出されている。2.浄化槽法改正について 国内汚水処理の9.2%をカバーする浄化槽に関し、2019年6月12日に国会で「浄化槽の一部改正案」が可決成立した。1)浄化槽法改正の背景 単独浄化槽や汲み取り便槽から合併浄化槽への転換が進んでいない。とくに単独浄化槽は古くから都市化が進んでいる都市圏の周辺に多く、愛知県、千葉県、静岡県、埼玉県、群馬県がトップ5である。なぜ転換が進まないのか。単独浄化槽使用者にとり既に水洗トイレになっているために転換インセンティブが働かない。単独浄化槽に比べ広い敷地が必要、さらに単独浄化槽に比べ設置費用、維持管理費用が高く不公平感があることなどが指摘されている。2)浄化槽法改正の内容 ①単独浄化槽から環境負荷の低い「合併浄化槽への転換」を促進する。国内にはトイレのみの汚水第3種郵便物認可“下水道と浄化槽のゆくえ”汚水処理の主役吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]54

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