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SEW層大循環グローバル・ウォーター・ナビ 地球温暖化が進むと、現在の地球の天候が大きく変化すると予測されている。例えば緯度の低い地中海沿岸、中近東、アフリカ南部、アメリカの中西部では、降水量が減り、年間の河川流量も減ると予測されている。逆に緯度の高いロシアやカナダでは河川流量が増える予測も出ている。当然のことながら、雨の強度や大雨の頻度も増し、「洪水のリスク」の増大、逆に水が足りない「干ばつのリスク」も増えるなど、いずれも「温暖化の影響で水資源の偏在が顕著になり地域の不安定さが増すことになる」と、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が第5次評価報告書で明らかにしている。 特に、この評価報告書の中で海洋学者が注目しているのが「深層大循環」の記述である。深層大循環とは水温と塩分濃度の違いから「熱塩大循環」とも呼ばれ、南極や北極付近で起こる強大な温度差を持つ水の輪による熱移動である。報告書では「大西洋の深層大循環の顕著な変化傾向を示す観測上の証拠はないが、3000mから海底まで温暖化した可能性が極めて高い」と指摘している。深層大循環は熱や水蒸気の移動を伴うため、地球規模での気温や降水量の分布に大第3種郵便物認可 きな影響を及ぼし、熱帯性低気圧やハリケーンなどが定常的に発生する要因にもなっている。1. 地球上で最高齢の流体は深 地球上で短期的な水資源の変化を考える「水文大循環サイクル」によると、地球に降り注ぐすべての太陽エネルギー17万7000TW(テラワット)のうち、4万1000TW(全体の1/4)のエネルギーが地球上の水や空気を動かし、いわゆる気候・気象の駆動源となっている。1)ハドレー循環 深層大循環の代表的な考え方は「ハドレー循環」である。18世紀に英国人の気象学者ジョージ・ハドレーが提唱した説で、「赤道付近で温められて上昇した空気は、上空を北と南に分かれて進み、北極と南極で冷やされて下降し、再び赤道付近に戻ってくる」というものである。▲地球の大気循環モデル(出所:ウィキペディア)第1961号 令和4年2月8日(火)発行(31)水資源移動の観点からハドレー循環を考えると、赤道付近で温められた空気は水蒸気をたっぷり含んだまま対流圏を上昇、成層圏近くまで達した気団は熱放射し、冷却された水蒸気は氷や雪、最後は雨となって地球上に降り注ぐ。近年の研究により空気の流れを詳細観測すると、水蒸気をたっぷり含んだ空気は、緯度30度付近で下降しているが、その後の循環説(中緯度のフェレル循環モデル、高緯度の極循環モデル)の機構は、すべてハドレー循環説と合致している。注目すべきは、地球上の大気循環の各モデルに含まれる水蒸気中の淡水の滞留時間である。水蒸気が冷却され淡水となって地球に降り注ぐまでは、平均して10日間の滞留時間であり、いわば「高速水循環」である。まさに我々が日常的に目にする地表面付近での水循環である。2)深層大循環 それに比べ深層大循環は「熱塩大循環」と呼ばれ1000年以上のサイクルを持つ大きな水の輪の移動である。この大循環を引き起こす地球温暖化と深層大循環~下水処理水は宝の山~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]81

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