SEWグローバル・ウォーター・ナビ SDGs(持続可能な発展)を目指して、世界中で再生可能エネルギーを活用し、水電解装置を利用した水素発生装置の研究・開発・実証試験が精力的に推進されている。 日本でも経産省・NEDOの国家プロジェクトや、各メーカーが水素開発に鎬を削っているが、3倍速で動いている世界から、「水から水素発生」の実用化で周回遅れのマラソンにならないように、早期に世界の動きを察知するとともに、実用化に向けて開発推進を加速することが求められている。 2020年10月、日本(菅政権)は「2050年カーボンニュートラル(以下CNと略す)」を宣言した。今までの地球温暖化への対応を経済成長の制約やコスト・ファーストとする時代は終わり、CNを成長の絶好の機会と捉え、「発想の転換」や「事業の変革」を積極的に行い、次の大きな成長に繋げる。さらに昨年末には「グリーン成長戦略」が掲げられ、2050年CNに向けた高い目標として「水素社会の構築」が盛り込まれた。水素の位置づけと、その社会実装への道筋は、①日本のエネルギー政策的な観点(水素の直接利用での脱炭素化、化石燃料をクリーンな形で有効活用、水素からアンモニアや合成燃料の生産など)、②日本の産業政策的な(34)第1952号 令和3年9月21日(火)発行 観点(水素社会構築に向けて日本企業の産業競争力の強化、水素新市場における経済成長促進、水素社会での雇用の促進)などである。 では競争力のある水素製造は、どうあるべきか。今世界の流れは「再生可能エネルギーを用いた水の電気分解による水素発生」である。1.水素には色がある 水素の色付けは、水素を発生させるプロセスや、原料によって便宜的に呼称が付けられている。1 )グリーン水素:再生可能エネルギーを用い、水を電気分解して水素を作る。再生可能エネルギーを使うためにCO₂を発生しない。2 )ブルー水素:化石燃料からCO₂を回収して、それを原料として水素を作る。CO₂の発生量を減らすことが出来る。3 )グレー水素:化石燃料で水素を作る(天然ガスの改質、ナフサ分解時の副生成物)。グレー水素を1t製造すると10tのCO₂が排出されるが、経済的には最もコストがかからない。4 )ブラウン水素:グレー水素の仲間であるが、特に石炭由来の水素を示す。5 )パープル水素:原子力で水素を作る。 これら水素の色付けはEU諸国で多用されているが、CO₂削減を語る時には、そのライフサイクルを考え判断しなければ誤りである。例えば再生可能エネルギーの代表格である太陽光発電パネル、発電時はCO₂の排出量ゼロに寄与するが、そのパネル製造工程(シリコンの採掘、運搬、溶解、パネル製造、配線材の蒸着など)や寿命後の廃棄物処理などで削減量以上にCO₂を発生しているとの論議も巻き起こっている。2.再生可能エネルギーの コスト比較 国際再生可能エネルギー機関(IRENA、2011年設立)が2019年に全世界1万7000件のプロジェクトから収集したデータによると、2010年を100とした場合、①太陽光発電(PV)発電コストは82%低下し、②集光型太陽熱発電は47%、③陸上風力発電は39%、④洋上風力発電は29%低下している。 また2019年に新規導入された大規模な再生可能エネルギーの発電設備容量の56%は、最も安価な化石燃料による発電コストを下回っている。2019年に操業した大規模太陽光発電の単価は、0.068米ドル(7.48円)/kWh、陸上風力発電は0.053米ドル/kWh(5.83円)、洋上風力は0.115米ドル(12.65円)/kWhになったと報告されており、日本の再生可能エネルギーとのコスト差は年々、拡大している。 再生可能エネルギーによる発電の競争力が向上する中、そのモジュール式の容易性、迅速な規模拡大、雇用創出の相乗効果も相まって、世界各国、地域が経済刺激策を検討するうえで、再生可能エネルギー採用が大きな魅力になって第3種郵便物認可水素社会の構築 ~水無くして水素なし~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]76
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