第3種郵便物認可 水所から自然流下で配水することを提案。さらにドイツ留学から帰国した弱冠38歳の水道技術者・中島鋭治により、淀橋浄水場(現在、都庁など高層ビルが立ち並ぶ西新宿に位置)の新設や配管ルートの改良が加えられた。2)渋沢の出願はどうなったか 明治23年、水道条例公布で、「水道事業は市町村経営とする規定」により許可されず、渋沢は私費を投じて作成した多くの書類「東京水道報告書」を市に寄贈、その内容は東京市の近代水道建設に大きく貢献した。2.鉄管問題と渋沢栄一 渋沢栄一は近代水道を、一刻も早く使えるようにするには、既に品質が保証されている外国産の水道鉄管(口径約1100mm)を使うべきと唱えていた。「国産に拘れば、いつ水道が完成するか判らない。鉄道でも、なんでも最初は外国製を使い、外国人を招聘し、技術を習得し、そののち漸次国産に切り替えるべき」と。これに対し国産鉄管推進派は、「我々には大砲を作った優れた技術がある、外国製品なんか、とんでもない」と大反対。ついに明治25年の暮れ、刺客を雇って馬車に乗っていた渋沢を襲わせたが、幸いにも渋沢はかすり傷程度で済み事なきを得た。 翌年、東京市は鉄管の見積もりを国内外の企業に要求したが、国内の鉄管会社が最安値ですべて受注した。しかし契約した製造業者の体制が整わず、大幅に鉄管の納入が遅れるという事態になった。やむを得ず、市会は外国製品も購入することを決議し、英国やベルギー、オランダ製の鉄管を購入することとなった。 鉄管問題はさらに悪化し、国産■パーマー案とバルトン案の比較項目原水送水方式玉川用水を甲州街道沿いの浄水場に受け入れ、それから蒸気ポンプで3ヵ所(麻布、小石川、浅草)の給水塔へ送る、その後自然流下で各家庭に配水する。◦ 利点:ポンプが止まっても短コスト比較給水塔「6.東京市水道との関係」(渋沢栄一『実験論語処世談』※より) 今の東京市水道は、明治二十二年から計画されて、同二十五年より工事に着手し、六ケ年の星霜を費し、経費九百三十余万円で、明治三十一年十一月漸く完成したものであるが、私と東京市水道とは浅からぬ関係あり、東京市の公衆衛生を保護するには、如何しても水道の設備を完成せねばならぬ事を思ひ。当時私は猶ほ東京市市参事会員でありもしたものだから、特に水道調査会を組織し、之が為め多少の私費をも投じて調査研究し、若し市に自営の意志が無ければ会社を組織して水道経営をやらうと云ふ意志が私にあつたほど故、鉄管問題の起つた際も、当時に於ける日本の工業状態では到底鉄管を内国で製造し得らるる見込無く、強ひて内国製を使用しようとすれば何時水道が完成するものやら判らず、その完成を急がうとならば、鉄道でも何んでも初めのうちは外国製の材料のみならず外国人の技師をさへ招聘し、これによつて啓発せられ、以て今日の発達を見るに至つたこと故、水道鉄管の如きも、まづ最初は外国製を用ひ、之によつて漸次本邦の斯の方面に関する知識を開発するやうにしたら可からうと私は主張したのである。 私が若し外国人よりコムミッションでも取る目的で斯んな意見を主張したものならば、確に私は売国奴であるに相違無いが、毫も爾んな事は無く、水道を一刻も早く完成させたいといふ無私の精神から之を主張したのだから、私としては些かたりとて疚しい処のあらう筈が無い。然し、若し愈々私の意見が通る事になれば、内国製を納入しようと目論んでゐたものは之が為儲からぬ事になる。その為、壮士を使嗾して私を嚇かしたものらしかつたのだ。 (出所:渋沢栄一『デジタル版「実験論語処世談」』/(公財)渋沢栄一記念財団)※ 大正4(1915)年6月~大正13(1924)年11月に雑誌『実業之世界』に連載され、ほぼ同時期に竜門社の機関誌『竜門雑誌』に転載された渋沢栄一の談話筆記品製造業者が東京市の検査で不合格となった多くの鉄管を合格品と偽って納入する不正事件を引き起こすに至った。明治28年10月、この事件が明るみに出て、府知事の辞職、市会の解散など政治問題へと発展した。さらに明治27年8月には、日清戦争が勃発し、必要な資材や労働力の不足、諸物価の高騰に苦慮し、工事はさらに遅れることとなった。 しかし幾多の障害を克服し、明治31(1898)年12月に東京水道の主要施設が完成し、淀橋浄水場から本郷給水所を経て神田、日本橋方面に初めて近代水道が通水されパーマー案(渋沢栄一)玉川上水時間は断水しない。(技術未完、高額な建設費) 第1950号 令和3年8月24日(火)発行(35)ることとなった。さいごに 渋沢栄一は公益を図るためには水道の普及が最優先と捉え、一刻も早く水道管を布設させるために「技術の未熟な国産ではなく、外国製品の使用し、漸次国産品に切り替えよ」と反論を恐れず主張していた。明治36年頃から国産品のレベルが上がり、次第に切り替わり、今や世界に誇れる東京水道の基礎となったのであった。水道インフラ事業においても渋沢栄一の慧眼が光っていた。バルトン案(改正委員会)玉川上水同じ浄水場から、蒸気ポンプで各家庭に直接給水する。◦ 欠点:ポンプが止まるとすべて断水する。給水塔方式に比べ安価
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