■兵庫県・瀬戸内海の漁獲量と窒素供給量の推移■瀬戸内海・藻場面積の推移(響灘を除く)第3種郵便物認可 漁業・養殖業生産統計(農林水産省)より作成。窒素供給量は、昭和54年、59年(兵庫県)、平成元年以降は発生負荷量管理等調査(環境省)による値(出所:第41回全国豊かな海づくり大会・兵庫県実行委員会事務局資料)れた。他方、気候変動による水温の上昇などの環境変化と相まって、一部の水域では、これまでの取り組みで削減されてきた窒素やリンといった栄養塩類不足による藻の減少による魚介類の減少、さらに海苔の色落ちや、都市開発等による藻場や干潟面積の減少等が課題であり、近い将来、さらに深刻化する恐れがある。 また、海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の問題は、海洋環境に悪影響を与える。つまり、今回の改正は「瀬戸内海における生物の多様性の向上および水産資源の持続的な利用の確保」を目的としている。2)主な改正内容 瀬戸内海の生物多様性の向上・保全や水産資源の増殖など、持続可能な利用の確保を図り、地域の水産資源を活用した「里海づくり」を総合的に推進する。具体的には次の施策を行う。(1)栄養塩類の管理制度の創設 沿岸の府県知事は、特定の海域への栄養塩類の供給を、水質環境基準(上限値)の範囲内において、現地の状況に合わせ独自に下限値(窒素0.2mg/L、リン0.02mg/L)を策定することができる。具体策として業種ごとの水質の目標値策定、栄養塩類供給の実施方法、水質測定の方法等を策定すること。また栄養塩類が環境に及ぼす影響について定期的に調査・評価し、随時計画を見直すことで、自治体ごとに、きめ細かく瀬戸内海および周辺環境の保全と調和を図ることができるようになった。 最終目標は、これらの施策により海洋生物の多様性を向上させ、その恩恵として将来にわたる多様な水産資源の確保に貢献することである。(2)自然海浜保全地区の拡充 浜辺の保全地区の指定拡充、再生された藻場などの保全活動の促進、創出された藻場は温室効果ガスの吸収源としての役割に期待する(ブルーカーボン)。(3)海洋プラスチック対策 プラスチックごみを含む漂流ごみの発昭和53年度(第2回自然環境保全基礎調査)の値は、平成元~2年度(第4回自然環境保全基礎調査)の面積に消滅面積を加算した値(出所:昭和35・昭和41・昭和46年度:水産庁南西海区水産研究所調査、平成元~2年度:第4回自然環境保全基礎調査(環境省)) 第1947号 令和3年7月13日(火)発行(35)生抑制や除去対策をとることなどが定められた。さいごに この法律は、2021年6月3日の衆議院本会議で可決・成立し、今後1年以内に施行される。この法改正は罰則規定の無い、いわゆる努力義務規定で、その実施者は国や瀬戸内海に接する地方自治体である。今回の法改正は海洋環境の変化を捉え、海洋生物の多様性を向上させる「豊かな海の創造」であり、国連が提唱するSDGs(持続可能な発展)の項目6「安全な水とトイレを」、項目11「住み続けられるまちづくりを」、項目13「気候変動に具体的な対策を」さらに項目14「海の豊かさを守ろう」「海の資源を守り、大切に使おう」を同時に実践する、日本の大きな歩みの一歩とも言えるだろう。このように瀬戸内海での大掛かりな海洋環境改善(700を超える島々と総延長7230kmの海岸線を含む)の実証試験は、現在海洋汚染対策に苦労している東南アジア諸国にとり、大きな教科書となり、日本の環境技術のグローバル・プレゼンスの向上に繋がるであろう。
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