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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 昭和48(1973)年、瀬戸内海の水質汚染に対処するために「瀬戸内海環境保全特別措置法」(以後、瀬戸内法と記す)が施行された。法律制定の背景は、戦後の急激な人口増加と工業・産業の発展により生じた未処理の汚水が、瀬戸内海の分水嶺内(国土の約16%、6万km2)の665本を超える河川を通じ、瀬戸内海に流れ込んだことだ。いわば最終沈殿池・汚水溜めとして瀬戸内海が汚染された。 この時に制定された瀬戸内法は、富栄養化による赤潮発生や海水の貧溶存酸素状態による汚染地区の急拡大を防止する目的であり、具体的には下水処理場や民間企業から排出される工場排水の水質などを業種ごとに厳しく規制する海洋汚染防止法であった。 この法律により瀬戸内海の汚染、例えば過剰な栄養塩類(窒素やリン)による赤潮被害が劇的に改善された。しかし近年、半世紀にわたり、その法律を厳格に守り、下水処理場などで処理水質をキレイにし過ぎたために、逆に大きな環境問題が起こってきた。 それは、窒素やリンを大幅に除去したために、海洋生物の生育に必要な栄養塩類が不足し、特に魚のエサとなる植物性プランクトンや動物性プランクトン、さらに藻場などが激減、その結果、魚種や(34)第1947号 令和3年7月13日(火)発行 ▲瀬戸内海 分水嶺と主な河川(出所:環境省「閉鎖性海域ネット」)漁獲高の減少だけではなく、養殖のアサリやカキの生育不足、海苔の色落ちなどの被害が頻発する事態に突入している。真面目な日本人、海をキレイにし過ぎて、魚がいなくなった。まさに“過ぎたるは及ばざるが如し”で、“水清ければ魚棲まず”である。 そこで、国・環境省は瀬戸内法を一部改正し「瀬戸内沿岸の府県知事が排水基準を緩和して独自に水質を管理」できるように、今国会に一部改正案を上程し2021年6月3日の衆議院本会議で可決・成立した。1.水質汚染防止への取り組み 豊かな海を目指して多くの取り組みが行われてきた。1)1970~1990年代 ◦1970年 水質汚濁防止法制定 ◦ 1973年 瀬戸内海環境保全臨時措置法制定(時限法) ◦ 1978年 瀬戸内海環境保全特別措置法制定(恒久法) 栄養塩類(窒素、リンなど)およびCOD負荷量の削減と普及活動を主とする。2)2000~2010年代 流れ込む栄養塩類の減少による食物連鎖を支える植物プランクトンの減少が顕著に、その結果、痩せた魚が多くなり、魚種の減少や養殖海苔の色落ち、養殖カキやアサリの生育不足が顕在化し、瀬戸内海は貧栄養化状態に突入した。3)2010年代以降の取り組み 沿岸自治体は貧栄養化の現状を踏まえ、豊かな海を創出に向けて、141万人の署名を集め国に「改正案」を提出、2015年10月に法改正「豊かな瀬戸内海を目指す基本理念」が成立した。今回の一部改正案は基本理念を実行するための具体策を示したものである。2. 瀬戸内海法の一部改正案 (概要)1)改正の背景 瀬戸内海の水質は、一部の海域を除き全体として一定程度改善さ第3種郵便物認可~水清く、し過ぎて魚棲まず~SDGsを目指す、瀬戸内法の改正吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]74

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