を積極的に採用し天文学的な半導体を安定して生産できる。②ヒトを大事にする経営方針 社員に対する動機付けもすごい。今回の急増に備えるために、台湾に勤務する社員約5万人を対象に基本給を一気に2割引き上げた(今年の1月から)。また今年度は9千人を採用する方針を明らかにしている(昨年は8千人採用済み)。③ 生産機材サプライヤーを大事にする経営方針 最先端のシステムを入れると、常にクレームの巣であるが、それを迅速に解決し生産能力を向上させてくれる機材サプライヤーを大事にしている。700社を超えるサプライヤーの中から毎年数社を選び表彰している。例えば「TSMC Excellent Performance Award 2019」の表彰では14社が選ばれ、日本勢は東京エレクトロン、信越化学、荏原製作所、関東化学などで、特にCMP(ウェーハ表面平坦化研磨装置)やドライ真空ポンプを納入している荏原製作所はCMP部門で8年連続、通算10回目の受賞をしている。日本勢のきめ細かいメンテナンス・サービス体制が世界の半導体生産を支えているとも言えよう。第3種郵便物認可 策を準備中とも述べている。 同社が2015年の水不足の際に試算した経済損失は、隔日断水で10億台湾元(約38億6千万円)。そうした中、製造に使われる水量は世界で最小、例えばウェーハ1cm2当たりの使用水量は5.66ℓで、米国(15.07ℓ)の約三分の一、日本(10.5ℓ)の約二分の一であり(世界半導体会議(WSC)の統計)、これ以上節水が出来ない状態である。 では、水の再生利用はどうなのか? これまた、用水のリサイクル率は世界最高に近い87%で、これを90%に上げるのは至難の業である。最後の手段は給水車による南部から工業団地までの水運搬である。しかし水の運搬は、重さとの戦いである。水資源がまだ有る台湾北部から南部まで運ぶためには、相当な経費がかかるだろう。 また同工業団地にはTSMCの他、世界的に有名なUMCやバンガード、パワーチップなどの半導体製造受託企業(ファウンダリー)や液晶パネルメーカーがひしめいているので給水車の奪い合いになることは必至である。 このまま台湾の水不足が続けば、将来の半導体には、水代金が大幅に上乗せされる可能性があるだろう。2.台湾積体電路製造(TSMC)の現状 TSMCは米国のテキサス・インスツルメンツ(TI)の上級副社長、張忠謀(モリス・チャン)が台湾で創業し、TI時代の豊富な人脈を駆使し、製造ラインを持たない企業(ファブレス企業)から、積極的に半導体の受託生産を引き受け、今や世界最大のファウンダリーとなっている。主要顧客は、アップル、クワルコム、AMD、NVIDIA、ファーウェイなど世界数百社に上る。TSMCは、どんな尺度で比較しても競合他社をしのぐ驚異的な企業である。 2020年の売上高は1兆3400億台湾ドル(約5兆2千億円)で前年比25.2%増、純利益も50%増と大きく伸びている。設備投資280億米ドルの8割は、回路線幅3nm(=ナノメートル、ナノは10億分の1)や5nmの最先端半導体に振り向ける方針である。 工場の増設は台湾のみならず。米国フロリダ州に新設中(投資額約35億米ドル)で、さらにアリゾナ州に120億米ドルの工場建設を計画中である。日本には最先端の開発拠点を設けるとの観測も出ている。日本経済新聞の報道では茨城県つくば市に開発を中心とする新会社を設立、投資金額は約200億円である。◦ なぜTSMCは世界的な企業になったのか 創業の受託生産ポリシーの徹底である。①最先端技術の積極採用 半導体の受託生産に徹するために、豊富な資金で最先端の製造装置(超微細工程の自動化システム)▲TSMCの半導体工場(出所:TSMC Annual report) 第1940号 令和3年4月6日(火)発行(39)
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