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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 世界中で半導体不足が深刻化している。発端は米国政府による中国企業への制裁、さらにコロナ禍によるリモートワークの拡大で世界パソコン市場の過熱、また自動車用や大電力用のパワー半導体不足など、この急激な世界需要に対応できる生産増強は2021年の後半か、来年春になるとの業界筋の見方が出ている。しかし、世界デジタル化の波は1秒たりとも休むことができない。このような背景下で世界最大手の「台湾積体電路製造(TSMC)」に世界中から半導体の注文が殺到している。 TSMCの生産する半導体は、iPhone(アイフォーン)から、冷蔵庫などの家電向け、自動車向けなど、数多くの産業セクターで欠かせない製品となっており、受託生産の世界シェアは55%を超えている。 しかし近年、TSMC最大の弱点が明らかになった。水不足で半導体の増産が出来ない状態に突入することが、懸念されている。まさに「水無くして、半導体なし」の状態に直面している。1.台湾の水事情 平均年間降雨量はおよそ2510mm(世界平均の2.5倍)であるが地域により大きな差がある。台湾は台風の常襲地であり、毎年大きな台(38)第1940号 令和3年4月6日(火)発行 ▲年々、微細化・高集積化するシリコンウェーハ(出所:TSMC Annual report)風に襲われ、洪水、土砂崩れ、用水路の破壊、家屋の損壊被害も多い。しかし台湾の水資源の8割は、この台風によってもたらされている。では、なぜ水不足が起こったのか。 昨年は台湾に上陸した台風が一個もなく、台湾全土で水不足が深刻化、蔡英文総統も「台湾は56年ぶりに最も深刻な水不足に陥った」とFacebookで語っている。 特に台湾南部で半導体工場が集中している新竹、桃園地区への水源、宝山第二ダムの貯水率は10.1%(3月17日)、石門ダムの貯水率は15%を切りつつある。◦台湾政府の対策 経済部水利署は、6月まで少雨が続くとの予測を受け、3月25日より新竹・苗栗·台中地区の工業用水の大口使用者に対する給水制限を従来の7%から11%に引き上げ、また水不足対策として急遽約51億円を投じて、桃園から新竹へ予備水道管を敷設し、新竹の漁港に海水淡水化装置を緊急配備している。◦半導体工場の対策 半導体製造業は「大量の水と高純度の水があって成り立つ産業」であり、高集積化に対応する超純水やクリーンルームの空調用水、高純度薬品のための温調純水、半導体製造装置のリンス用水など、半導体1工場で、一日あたり最低でも20万t(水道水なら約67万人への給水規模)の水資源が必要と言われている。 同地区に工場を構えるTSMCや群創光電(イノラックス)や友達光電(AUO)は既に対策(給水車の増員、大手給水車業者と契約、水リサイクル装置の拡充など)をとっており、今のところ、生産には影響が出ないと説明している。また長期にわたる水不足や、さらに厳しくなる工業用水の給水制限下でも、工場運営を継続できる対第3種郵便物認可水が無ければ、半導体は作れない~台湾の深刻な水不足~吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]71

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