SEWグローバル・ウォーター・ナビ ハッカー事件は、2021年2月5日、米国フロリダ州オールズマー市(給水人口1万5千人)で起こった。市の報道官によると、金曜日の朝、浄水場の従業員が監視用のパソコンを見ていた時、自分がなにも操作しないのに画面上で、カーソルが勝手に動き回っているのを見たが、誰か同僚が見ているのかと思い、なにもしなかった。しかし、その日の午後に再びカーソルが勝手に動き、今度は水質調整用薬剤、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の注入点が1万1000ppm(1.1%)に設定され、一部の浄水は既に場内の貯水槽に送られていた(市民への給水は無かった)。発見した従業員は、すぐに注入レベルを正常に戻し、上司に連絡し警察へ通報した。フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員が、この事件は「国家の安全保障の問題と▲ ハッカー事件の舞台となったフロリダ州・オールズマー浄水場(出所:Googleマップ/Google Earth)(42)第1938号 令和3年3月9日(火)発行 して扱われるべき」と主張し、FBI(米国連邦捜査局、司法省直轄)とUSSS(シークレットサービス、国土安全保障省管轄)に支援を求め、全米のテレビ局やマスコミが大々的に報じるフロリダ州・オールズマー浄水場のハッカー事件となった。1.ハッカー事件の概要 市の報告によると、違法なリモートアクセスは2021年2月5日、8時と13時半に確認された。一度目は短時間だったが、二度目は何者かが「データ取得システム(SCADA)」および「薬品の制御システム」を開き、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の注入レベルが100ppmから1万1000ppm(1.1%)に引き上げられた。発見した従業員は、直ちにこれを正常な数値に引き下げたために、一部は浄水場内の貯留槽に流入したが、市民に供給される水道水には、影響がなかった。苛性ソーダは浄水処理のpH調整剤として用いられ、市販の排水管クリーナーなどに使われるように、極めて強いアルカリ性を示し、タンパク質を分解する。高濃度の苛性ソーダ溶液は、人体に危険を及ぼす可能性がある薬品である。 3日後に同市を所管する警察組織や郡の保安官事務所が共同で、「さらなる不正アクセスを防止する、と同時にFBIや州・連邦政府と連携して容疑者の特定や、アクセス元などの調査を開始した」ことを明らかにした。だが2月25日時点で「容疑者の特定やアクセス元」などは判明しておらず、捜査続行中である。一方ハッカー対策の専門家から、今回のハッカーは「カーソル等の視覚的な存在を隠していない所から、レベルが低い」のではないか、との指摘も出ている。2.なぜ大きな問題になったのか サイバーセキュリティ・インフラ保安局(CISA)によると、米国の水道事業は約2万4千の事業者により支えられており、そのうち85%が公共事業体で運営され、施設数として15万3000の飲料水システム(上水道)がオペレーション第3種郵便物認可FBIも乗り出したフロリダ州・浄水場のハッカー事件吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]70
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