ギー、天然ガス開発、省エネの3領域に事業をシフトさせてきた。旗印は「二酸化炭素排出量ゼロを実現できるソリューション分野で、世界のトップリーダーを目指す」であり、今回の売却益は再生可能エネルギー開発(クリーンガスと洋上風力発電)の投資用とみられている。2.ヴェオリアとスエズの応酬合戦 スエズの最高責任者ベルトラン・カミュは、「ヴェオリア提案はスエズの解体であり、フランスにとって悲惨な結果をもたらすだろう」、さらに「スエズは結婚する必要はない」とフランスの日刊紙ル・フィガロ紙に語った。スエズは敵対買収への対抗策として、フランスの水事業をオランダの財団へ移す対抗策を発表。また、フランスの民間投資会社アルディアン(1千億ドルの資産を保有する世界有数の民間投資ハウス)の創設者ドミニク・セネキエ氏に直接掛け合い、ヴェオリア提案の1株当たり18ユーロより高い18.50ユーロの価格を約束させた。しかし、翌日の10月5日にアルディアンは突然、撤退を表明。ホワイトナイト(白い騎士)は消え去った。 撤退理由は「アルディアンは、敵対的な買収案件には関わらない原則でビジネスを拡大させてきた。従ってこの提案は受け入れられない」と表明されたが、別の大きな力が働いたのではないかとうわさされている。さらに10月9日、パリの裁判所はスエズ・グループの社会経済委員会(CSE)の要請に基づき、ヴェオリアによる株式買収を停止する命令を出している。一方、ヴェオリアのフレロ会長はジャーナリストとのインタビュー▲グローバル・ウォーター・インテリジェンス誌・発行責任者のクリストファー・ギャソン氏(左)と「世界水ビジネス市場」について語る筆者 (2009年6月24日、シンガポール国際水週間で)第3種郵便物認可 で「この歴史的な機会は、国際的な開発を促進し、イノベーション能力を強化し、フランス企業が世界チャンピオンを構築することを可能にするだろう」と、さらに「世界の水ビジネスが急速に成長し、海外進出に力を入れている中国企業との競争や、資産を買い占めるインフラファンドを心配している。我々はいつの日か、世界的な中国企業が目の前に現れることを危惧している」と述べている。3.合併に関し、グローバル・ウォーター・インテリジェンス(GWI)の見方 長年、筆者と交流のあるGWIの発行責任者クリストファー・ギャソン氏は11月のブリーフィングで次のように分析している。 スエズとヴェオリアは、世界における2大民間水供給者であるが、世界の主要な水供給企業20社のうち、中国企業は12社を占めている。ヴェオリアのスエズ買収計画は、ライバルの強さに対抗する新しい挑戦である。具体的には次の項目が挙げられる。① 産業用水事業の統合の加速(競 第1932号 令和2年12月1日(火)発行(35)合他社より2~3倍のビジネス創出可能)。② 巨大資本へのアクセスは、競争上の優位となる(信頼性の向上)。③ ヴェオリアは、反トラスト法の理由からスエズのフランス水事業をメリディアム(仏・インフラ運用会社)に売却する計画である。④ ヴェオリアは、再び水ビジネス中心の企業となる。これまでヴェオリアは固形廃棄物やエネルギーへの投資を増やし、水への依存度を減らしてきたが、スエズとの合併により水事業は50%以上増加するだろう。さいごに 水業界にショックを与えたヴェオリアによるスエズ完全買収の動きであるが、巨大水企業の創出であるがゆえ、多くのステークホルダーへの説得、法的な規制のクリアランスなどが待ち受け、完全合併までに、少なくとも2~3年はかかることが予想されている。世界水ビジネスの環境は、この大型合併により大きな転換期を迎えるであろう。
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