さいごに 日本は化石燃料費(石油、石炭、天然ガス)として年間約25兆円(2014年度、資源エネルギー庁調べ)を海外に支払っている。これは毎年外に出ていくお金であり、いつまでも払い続けることはできない。 日本の電気エネルギーの現状を考慮すれば、毎年外へ出ていくお金を再生可能エネルギーの開発に投資すべきで、その代表格として、小水力発電に対する投資とその規制改革を早急に進めるべきであろう。前述のように国内には小水力発電の候補地は、いたるところにある。元国土交通省河川局長の竹村公太郎氏の著書「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社)では、①今あるダムのかさ上げで年間2兆円の電力を増やせる、②巨大ダムを造る時代ではない、既存ダムの活用と小水力発電開発を促進せよ、③水源地帯の自治体と民間企業が手を組み、水力発電で地方にお金と雇用を生み出せ、と主張している。まさにCO2削減と地方創生(新産業育成と地元に雇用を造る)への提言であり、国を挙げて取り組む課題である。幕張給水場(千葉市美浜区)妙典給水場(市川市)北船橋給水場(船橋市)マイクロ水力発電の仕組みマイクロ水力発電事業の効果年間計画発電量(kWh)出力(kW)場所350kW300kW(1号機)160kW(2号機)75kW 約137万kWh(一般家庭およそ380軒分)約105万kWh(一般家庭およそ290軒分)約92万kWh(一般家庭およそ260軒分)妙典給水所内マイクロ水力発電年間削減CO2(t)およそ636t事業開始H20年4月およそ487tH20年5月およそ427tH26年2月第3種郵便物認可 則である。2005年以降に許可手続き等は緩和されたものの、水利許可書には、秒あたりの取水量の最大値が厳格に定められ、事業者は、この最大値を超えて取水してはならないとされている。自然相手の水量を秒単位で制御するのは不可能なので95%くらいに抑えて取水することが、一般的である。しかしながら環境調査、既存の水利権者と調整など、多数の事項が先送りされ、依然として発展途上の段階である。既に水利権を有する、下水処理場や浄水場を持つ自治体は、積極的に取り組むべきである。例えば千葉県水道局などは、浄水場と給水場との落差を利用し「マイクロ水力発電」を実施している。3.水利権問題 水は国民の共有財産であり、その水利用は水利権により保護されている。 日本においては、農業用水は水需要全体の約66%を占めており、その水源には江戸時代から続く①慣行水利権がある。これは「水の事実上の支配により社会的に承認された権利」で、さらに「旧河川法(明治5年)以前に承認された権利」も含む。主に農業用灌漑用水であるが、飲料水使用も慣行水利権で守られている。一方、②許可水利権は「河川法(昭和39年)第23条において、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者から許可された権利」である。 水利権の課題は、慣行水利権の権利内容が許可水利権に比べ、必ずしも明確でなく、長年、慣行水利権の法定化(数値で規定された許可水利権)への移行に取り組んでいるが、利害関係者の対立で、遅々として進んでいないことであ▲千葉県水道局 マイクロ水力発電の例(千葉県水道局ホームページより引用、作成)る。例えば首都圏最大の水源である利根川・荒川水系の水利使用件数では、慣行農業用水が最も多く約47%を占め、許可農業用水は約44%である(平成29年3月、国交省調べ)。 農業用水は「かんがい」を水利目的としており、期別に最大取水量が定められている。最大取水量とは、取水の限度量であり、不必要な水量を取水したり、他の目的に使用したりすることはできないと規定されている。つまり一度水利権を得れば、既得権になり、流域全体の効果的な水分配ができない。また日本には、海外と異なり水利権売買の仕組みは無い。 水資源の活用は国民生活に密接に関与しており、水施設の建設・維持管理は、その所管官庁にて行われている。各省庁独自、または都道府県を通じて、自らの水の利用状況を把握しているが、その生きたデータは他の省庁に提供しておらず、水情報の共有化は十分に図られているとは言えない状況である。水利権アイテムも悪しき前例主義を打破する行政や規制改革のターゲットとし、また水資源データの共有等はデジタル庁新設時の課題に取り上げるべきであろう。 第1930号 令和2年11月3日(火)発行(39)
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