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発電時にCO2を排出しない SEWグローバル・ウォーター・ナビ 菅首相は10月26日の国会での所信表明演説で「温室効果ガスの排出量実質ゼロ(2050年)」を打ち出した。欧州連合(EU)は既に実質ゼロの目標を掲げている。やっと日本も「脱炭素社会の仲間入り」に足並みを揃えてきたと言えよう。温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」は、世界の気温上昇を産業革命前から「2℃を下回り、1.5℃に抑える目標」を掲げている。日本政府は昨年6月に、この達成に向けた取り組みを閣議決定したが、具体的な時期を示していなかった。今回初めて2050年目標を宣言したことは、世界から評価を受けている。では具体的な温暖化対策の目玉と言われているCO2をどのくらい削減ができるのか。これからの努力目標であるが、まずはクリーンエネルギーと言われる水力発電を見てみよう。1.水力発電はクリーンエネルギーの代表格 日本列島に降り注いだ雨や雪は、川を下り海に注ぎ、海水は日光に温められ蒸発し雲になる。雲は再び列島に雨や雪を降らせ、水は永遠に無くなることのない、繰り返し使える再生可能エネルギーの代表格である。言い換えれば水力発電は資源小国の日本の貴重な純国▲ 各発電方法の特徴(関西電力ホームページより作成)  燃料費ゼロ、発電時にCO2を排出しない水力発電は2030年の発電主役に原子力太陽光(住宅用)風力(陸上)水力(一般)石炭火力・ 燃料の埋蔵地域に偏りがなく。世界に広く分布・ 燃料の埋蔵地域の偏りが天然ガス(LNG)火力石油火力・ 燃料の埋蔵地域が中東にエネルギーの安定供給環境保全(1kWhあたりのCO2排出量)■    原料の採掘や運搬、輸送時など■  発電時・ 燃料の埋蔵地域が世界に広く分布・備蓄性に優れる・燃料をリサイクルできる■ 19・ 資源が枯渇するおそれが■  38ない■  25・自然条件に左右される■  11┌───943───┐■■79~  864  ┌─599─┐■■123~ 476  ┌──738──┐■■43~ 695  単位:g-CO2/kWh小さい偏っている経済性(1kWhあたりのコスト)2014年2014年時点での燃料費モデルプラントモデルプラント10.1円~(8.8円~)1.5円29.4円~12.5円~16.4円(12.3円~16.2円)・広い土地が必要13.6円~21.5円(9.8円~15.6円)(27.3円~)0円21.6円~(15.6円~)0円11.0円~0円(10.8円~)12.3円~5.5円(12.2円~)13.7円~10.8円安全性など2030年・ 徹底した安全確保、厳重な放射線管理、廃棄物の適切な処理、処分が必要10.3円~(8.8円~)11.0円~・ 新たに建設できる(10.8円~)場所が少ない12.9円~(12.9円~)・ 世界的な資源価格13.4円~の変動により、発(13.7円~)(13.4円~)電コストが大きく左右される(30.6円~43.3円)21.7円28.9円~41.7円30.6円~43.4円(28.9円~41.6円)( )内は、政策経費を除いたコスト(38)第1930号 令和2年11月3日(火)発行 産自然エネルギーである。他の発電方式と比べ設備費は高いがライフサイクルCO2発生量は最小(10.9g-CO2/kWh)である。その特徴は燃料費がゼロで、しかも設備稼働率は平均60%で太陽光12%、風力20~30%と比較し抜群の高さである。 水力発電は承知のように、他の電源と比べ①非常に短時間で発電開始(3~5分)が可能であり、②電力需要の変化に素早く対応(出力調整)が可能であり、それ故、発電ダムは、「最高の天然バッテリー」とも言われている。 しかし、今から大きなダムは建設ができない。注目されているのは小水力発電である。2.小水力発電用水 持続可能なエネルギー源として▶ 各種発電技術のライフサイクルCO2排出量(電力中央研究所「日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価」より作成)小水力発電(出力3万kW未満)が注目されている。環境省の可能性調査では全国で既に2万6千ヵ所以上が特定されているが、設置が進んでいない。設置を増やせない大きな理由は、小水力発電設備のコストや技術的な問題もあるが、最大の課題は、①複雑怪奇な水利権問題や②買電に消極的な電力会社の意識改革、③それらを打破する法律改正や規制改革の遅れである。 規模に関わらず水力発電を行う際は、原則として河川法による「水利使用許可」を得なければならない。過去の小水力発電許可は、事前協議を含め、最低1年から2年の期間が必要であった。さらにどんな小規模の水力発電であっても大規模なダムと同様な手続きが原第3種郵便物認可地球温暖化対策として水力発電の役割吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]66

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