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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと1年に迫った8月11日、東京お台場でのオープンウォータースイミング(マラソンスイミング)のテストイベントで競技結果以上に注目が集まったのは、選手たちから発せられた「トイレの臭いがする、汚い水だ、水中で自分の手の先が見えない」という感想だった。そして17日、パラトライアスロン・ワールドカップのスイムは中止となった。その理由は、ITU(国際トライアスロン連合)が定める基準値の2倍以上の大腸菌数が検出されたからだ。その原因は東京湾の下水にあった。1.下水処理システム 家庭や工場などから排出される汚水と雨水を合わせて「下水」と呼び、その下水の排除方式は合流式と分流式に分類されている。合流式は1本の下水管の中を汚水と雨水が一緒に流れ、分流式は汚水管と雨水管の2本の下水管で構成されている。汚水は下水処理場の生物処理(活性汚泥法など)で汚濁物質(BOD、COD、SS、油脂分など)を除去し放流され、雨水は、大きな夾雑物を除去した後、水域に放流されている。 東京都区部の下水道は、約8割(42)第1901号 令和元年9月10日(火)発行 ■東京都の下水処理 (2016年度末現在、東京都資料)多摩地区約870万人約350万人が合流式下水道で整備されてきた。ニューヨークやロンドンでも合流式が採用されている。これは歴史のある大都市では、都市型の洪水被害(浸水)を早期に防ぐために合流式で下水道が急拡大したためである。デメリットは、大きな雨が降ると汚水混じりの雨水が水域に放出され水質汚染を引き起こすことだ。しかし合流式から分流式に変えるのは簡単ではない。都議会では「分流式に全て変えるためには10兆3千億円と数十年がかかる」との議会答弁も出ている。2.東京都の下水処理について 下水処理対象区域は、区部と多摩地区に分れている。それぞれの項目は以下の通りである。 前述のごとく、都下水の8割は合流式で整備されているため、ゲリラ豪雨のような大雨が降ると下水処理場で受け入れが出来ない大量の汚水が川を経由し、最終的に東京湾に貯留される。つまり汚水区部項目対象人口普及率99%管きょ延長1万6千km232km年間処理水量16億m33億m3日平均処理量451万m3/日94万m3/日水再生センター13ヵ所ポンプ場84ヵ所100%7ヵ所2ヵ所■マラソンスイミング(国際水泳連盟の基準値)■トライアスロン(国際トライアスロン連合の基準値)の最終沈殿池が東京湾である。勿論、東京都は合流改善として様々な対策(雨水貯留、固形物除去、塩素消毒など)を進めているが、今後益々増加するゲリラ豪雨対策、降雨75mm対応などに追い付いていない。大雨の時は下水管の途中にある約800ヵ所の雨水吐き出し口から生下水が放出される。その頻度は年間多い時で90回から120回に及んでいる。これがお台場の水質汚染の元凶である。勿論、東京湾には、都だけでなく神奈川県、千葉県からの下水も流れ込んでおり、これらも加味しなければならない。お台場の水質汚染改善については、多くの下水道関係者が長年にわたり国や湾岸自治体に訴え続けてきたが、声が届かず無視されてきた結果とも言えるだろう。3.マラソンスイミングとトライアスロンの会場、お台場海浜公園の水質問題 お台場で行われる予定のマラソンスイミングとトライアスロンの水質基準は以下の通り。現在問題になっているのは、大腸菌数と海水温度である。1)大腸菌問題 2年前、東京都がお台場で東京項目糞便性大腸菌群数油膜COD透明度水温項目大腸菌数腸球菌数pH水温250個/100mL以下100個/100mL以下6~932℃未満(水深60cm)第3種郵便物認可基準値1000個/100mL以下常時は認められない8mg/L以下0.5m以上31℃以下(水深40cm)基準値大腸菌と戦う東京五輪・パラのお台場スイム会場吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]52

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