▲浮上試験中のフラップ式ゲート第3種郵便物認可 ▲フラップ式ゲート( 出所:イタリア政府HP内 http://www.mosevenezia.eu/げはもちろん、排水機能の強化(ポンプ場、大口径排水管の設置)が行われているが、世界遺産の景観保護のためにかさ上げ高さは、ヴェネチア地区では110cm以下、周辺都市でも180cm以下と規制され高い堤防は設置できない。その解決策の決め手(景観性保護、海上交通の確保、湾内水環境保全)として採用されたのが海中設置型の可動式フラップゲートであった。2.海中設置型の可動式フラップゲート ヴェネチアには大洋・アドリア海につながる水路が3つ(リド、マラモッコ、キオッジャ)あり、総延長は約1600mである。水路の海底3ヵ所にケーソン(コンクリートまたは鋼製の箱型水中構造物)を沈め、その中に可動式フラップゲート(幅20m、長さ18.5~29m、厚さ3.6~5m)を78基格納。沖合の海面が上昇するとフラップ内に空気が注入され、可動ゲートは海面から最大3m浮上し、押し寄せる海水を止める構造である。各ゲートには2個のヒンジ(蝶番、重さ各42t)が設置され、ヒンジ合計は156個である。 可動式ゲートの上昇に要する時multimedia/ 下の写真2点も)▲基礎ハウジング(ケーソン)の進水間は約30分、下降は約15分である。水中構造物なので、海水位が低い時はゲート上を船が行き来できる構造である。また、可動堰近くの陸地に閘門を設け可動ゲートが作動し海水路が閉鎖した場合でも、大きな船が別ルートで往来できるスエズ運河と同じような構造を取っている。プロジェクトの進行状況は2019年11月時点で94%となっている。3.モーゼ計画……なにが問題か イタリアの港湾環境研究センターの報告によると110cmを超す高潮は1923~1932年の10年間には1回だけだったのに対し、1973~1982年には37回、1993~2003年では53回にも及んでおり、年々増加する傾向にある。また高波による浸食被害も大きく、土地面積は1810年当時の3割しか残っていない。このモーゼ計画は1966年の潮位(194cm)を基準にした防波 第1925号 令和2年8月25日(火)発行(37)提計画であるが、地球温暖化の影響により、近年高い潮位が続き3mを超す高波が多く観測されているが、原設計(2m対応)が変更されていないために、このままでは今後の高波に対応できないのではないかと指摘されている。また建設途中で汚職問題も発生し、ペネト州知事やヴェネチア市長をはじめ35人が逮捕される事件も起き、さらに環境問題(ラグーンを仕切るため排水が滞留し水質悪化)も提起され、ゲート建設が遅れ、完成は2021年末とされている。 また工期が長期間(既に17年経過)になったために、最初に沈下させたケーソンのヒンジ部分がすでに腐食され、作動が不安定とも報告されている。原計画では5年ごとに水中検査・補修し、15年ごとに可動式ゲートを浮上移動させ,造船所として使われていたアルセナール地区で本格的な補修を行うことが決められていたが、当然実施されていない。さいごに わが国でも同じように高潮、津波対策として海底設置型の可動式ゲートが建設(岩手県大船渡湾など)されているが、ヴェネチアのように世界遺産としての景観を守りつつ運用方法や維持管理のノウハウ・実績などに注目し、今後、世界的な流れであるウォーターフロント計画の先駆者として注目してみたい。
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