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第3種郵便物認可 力の強化は国家の主権であり、「我が国の主権を侵し、水利権をエチオピアに認めない要求は絶対に受け入れられない」との立場だ。つまり人口1億人(2018年、世銀調べ)を超えたエチオピアにとり「豊富な水資源の確保は、国家の命運をかけた命の水」なのである。2. ナイル川を巡る水利権協定の歴史 1929年、英国の統治下にあったエジプトとスーダンとの間だけで、盟主英国の指導で「ナイル協定」が結ばれた。この協定はナイル川の総水量のうち、65%がエジプト、22%がスーダン、残りの13%は要求があれば、その他7ヵ国により分割取水されるという内容である。さらに30年後の1959年、エジプトとスーダンとの2国間で、エジプトが総流量の75%(555億m3/年)、スーダンが25%(185億m3/年)の再配分協定を締結している(参考:本紙1852号・連載第29回に詳述)。3.水戦争の解決手段は ナイル川紛争の特徴は、水需要が下流国(エジプト、スーダン)に集中しており、上流国である水源地域の水需要が極端に少ないことである。特に最下流のエジプトは、国内水需要の97%をナイル川に依存している。本来の農業用水に加えて近年GDP成長率が4%を超え、しかもカイロ大首都圏人口が2200万人(この10年間で倍増)を数え、新たな街づくりが急ピッチで進められている。同国の経済発展を支えるナイル川の水資源確保は国家の命題なのだ。仮にナイル川の水が2%減るだけで、農民100万人が職を失うという試算も出ている。 当初は上流国スーダンと下流国エジプトの水利権争いだった。エジプトは先に述べたように歴史上の優位性と国際条約締結の事実、▲ダムの完成予想図  (出所:Salini Impregilo S.p.A.)◀建設中のダム(2019年12月) (出所:BBC.com) 第1922号 令和2年7月14日(火)発行(37)さらに「上流国の水資源開発には下流国の同意が必要」とする、いわゆる「下流の論理」を自国の主張論拠としてきた。 しかし上流国は、逆に「上流の論理」を主張、「上流国の水資源開発は下流国から制約をまったく受けない」とし、常に対立が続いているのが現状だ。また隣国間の取り決めも常に疑ってかからなければならない。エチオピアが巨大ダムの構想を発表した時は、エジプトはスーダンと組み、両国で絶対反対を唱えていたが、突然スーダンはエジプトに反旗を翻し、今度はエチオピア側についた。スーダンは巨大ダムが完成したら、その発電量の一部を貰い受ける密約が成立したとの観測がささやかれているが、真偽のほどは不明である。さいごに 歴史家ヘロドトスは「エジプトはナイルの賜物(たまもの)」と述べ、ナイル川とともに発展してきたエジプト。そのエジプトの総人口は20年2月に1億人を突破し、人口大国の一員となった。しかし同時に人口の激増による貧困の拡大、失業者の増加、食糧不足、社会インフラの未整備に直面している。ナイル川の水を止められることは国家の死を導くことになる。急転直下、20年6月26日エジプトの大統領府は「エチオピア政府が、ダムへの注水を延期することで3ヵ国が合意した、これから技術委員会で具体的な合意内容を目指す」と文章で発表したが、過去の90年間の交渉の歴史をみても、完全合意と履行は難しいと思われる。2015年にも3ヵ国で合意されたが不履行であった。国際河川の水利権問題は、人間が生きている限り永遠に続く課題である。

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