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SEWグローバル・ウォーター・ナビ エジプトとエチオピアとの「水戦争」が再燃している。世界最長のナイル川を巡り、上流国エチオピアが建設しているアフリカ最大の巨大ダムが完成し貯水を始める構えだ。仮に、このダムが貯水を始めるとナイル川の水位が大きく下がり、流域諸国から経済に大きな影響を与えると「不安と怒り」が寄せられている。ひときわ激しい怒りはエジプトである。長年にわたる水利権の交渉が紛糾し、エジプトは20年6月19日、国連安全保障理事会に介入を要請するなど、国際河川の水利権を巡る争いに緊張が高まっている。 2013年当時、エジプトのムハンマド・ムルシ大統領は国民に向けたテレビ演説で「我が国はエチオピアとの戦争は望んでいない、しかしエジプト文明と国家を支えてきたナイル川の水量が減少することは絶対に受け入れられない。我々にはあらゆる選択肢の可能性がある」と軍事行動をも示唆する強い調子で訴えた。 ナイル川はエジプトの水需要の約97%を賄っているだけではなく、流域10ヵ国にとり「水と電力を供給する生命線」にもなっている。「水無くして、国家無し」の概念は国際河川を持たない日本人には馴染みがないが、今や世界の常▲ナイル川流域図(36)第1922号 令和2年7月14日(火)発行 識である。1.ナイル川上流の巨大ダム ナイル川はアフリカ大陸東北部の10ヵ国を流域に持つ世界最長級の国際河川であり、長さは6650km、流域面積287万km2に及び最後は地中海に注いでいる。流域国は下流から、エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、コンゴ、ルワンダ、ブルンジであるが、ナイル川の源流はどこか、未だに論争が続いている。一般的にはタンザニア、ケニア、ウガンダ3ヵ国にまたがるビクトリア湖(面積6万8800km2、アフリカ最大で世界第3位の大きさ)とされているが、実はビクトリア湖に流れ込んでいる最大河川はルワンダを源流としている。そのルワンダも上流国のブルンジと源流争いをしている、なぜなら彼らの国境線の一部は河川の中心線である。大ナイル川は白ナイルと青ナイルで構成されており、エチオピアは「ナイル川のほとんどの水量を支えているのは青ナイルで、その源流は我が国のタナ湖(面積3000km2、海抜1800m)である」と主張している。◦大エチオピア・ルネッサンス・ダム 建設中の巨大ダムは、「大エチオピア・ルネサンス・ダム」(Grand Ethiopian Renaissance Dam)である。スーダンとの国境に近いエチオピア西部で2011年に建設が始まった。総工費約33億ユーロ(約4300億円)、堤高155m、堤全長約1.8km、総貯水可能量約740億m3、計画発電総量6450MW(フランシス型水車:375MWx16基、アップグレード)で22年からの本格的な稼働を目標としている。このダムはアフリカ最大のダムだけではなく、世界でも7番目の巨大水力発電所となる。 エチオピアの全国電化率は約30%(2019年、世銀調べ)であり、このダムが発電を開始すると、今まで乾季には毎日続く停電が解消され、国民生活の改善はもちろんのこと、同国の経済発展の礎になるのだ。大規模ダムによる発電第3種郵便物認可ナイル川は誰のものか、国際河川を巡る水争い吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]62

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