SEWグローバル・ウォーター・ナビ 何かと批判される我が国、政府のコロナ感染症対策であるが、世界各国と比べ、その死者数はケタ違いに少ない。国民の公衆衛生の意識の高さとも言えるが、当面は試行錯誤の対応でウイルスと付き合うしかないだろう。我々が毎日できることは、徹底的に水道水での手洗い励行である。しかし明治20年以来、日本国民の公衆衛生を守り続けてきた日本水道は、今や危機的な状況(料金収入の減少、水道施設の老朽化、水道人材の不足)に直面し、その対策には毎年約2兆円の更新費用が必要である。下水道事業も同じ悩みを抱えている。一方、新型コロナウイルスの収束が見えない中、多くの自治体が上下水道料金の全額免除や減免制度を次々に打ち出し、5月18日現在で110超の自治体が実施を公表している。現状でも大きく不足する更新に対する原資がさらに先細りになってしまう。国民の命を守る上下水道を崩壊させる「上下水道料金・減免ウイルスの蔓延を防ぐ」ことが求められている。1. 日本水道の現状と上下水道料金減免の動き1)日本・上下水道の現状 全国約1400水道事業体の52%は原価割れ(給水販売価格が製造原3100件などと、いつ機能不全になっても不思議ではない状況に追い込まれている。 このような背景下で、コロナ対策として多くの自治体で上下水道料金の減免措置がウイルスのように拡散されようとしている。2) 水道料金を全額免除……熱海市、小野市など 水道料金は、水道メータ口径別の基本料金と使用水量に応じた従量料金の合計である。◦ 熱海市:市内の全利用者(計画給水人口3万7200人)を対象に4月水道使用分を全額免除、減収分(約1億5千万円)は一般会計から補填する。下水道使用料、温泉料金、温泉汚水料金は減免せず支払い猶予を継続する。全額免除の継続については、今後の感染拡大の状況を踏まえて検討する。◦ 根室市:業務用(飲食店、宿泊施設など)の水道および下水道料金・全額を2ヵ月免除する。◦ 所沢市:全契約者(約17万件)に対し水道料金を2ヵ月間全額免除、免除予定総額は約9億5千万円。◦ 滋賀県湖南市:一般家庭の水道料金全額を4ヵ月分免除する。対象世帯は約1万6千戸、減収額は約3億円を見込んでいる。事業所や下水道使用料は対象外。◦ 兵庫県小野市(給水人口4万8638人、給水戸数1万9986戸):一般家庭および市内在住の個人事業者は6ヵ月間水道料金全額を免除、それ以外の事業者は基本料金のみ免除、ただし水道の無制限な利用抑制のために下水道使用料は免除対象外とする。3)基本料金のみ減免の自治体◦ 大阪市:水道料金および下水道(38)第1919号 令和2年6月2日(火)発行 価より低い、厚生労働省水道ビジョン)つまり赤字体質である。全国の水道料金収入は、人口減少、企業の海外移転、大口ユーザー(ショッピングモールや大病院、大学など)の地下水利用などにより、過去10年間で2千億円の減収であり、毎年200億円ずつ収入が減少している。また漏水事故(年間約2万件)の主因となっている老朽管(耐用年数40年超)の割合は全国総延長68万kmの15%(地球2.55周に相当)に達し、その更新率は0.76%であり、すべての老朽管を更新するためには約130年かかるという試算も出ている。厚生労働省では、全国・水道施設の予防保全をする場合、2019年度から20年間で、年度平均約1兆9千億円の更新費が必要と推計している(グラフ)。つまり水道事業を持続可能にするためには、国費での支援と水道料金の値上げが必須であることを示している。 下水道施設も危機的な状況に直面している。全国約2200ヵ所ある処理場の電気・機械設備の標準耐用年数(15年)を超えた施設が1900ヵ所(全体の86%)、1600ヵ所ある雨水ポンプ場で耐用年数(20年)を超えた施設が1200ヵ所(全体の75%)、下水管路に起因する道路陥没件数が平成30年度で約第3種郵便物認可コロナ禍より怖い上下水道料金・減免ウイルスの蔓延吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]61
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