▲ベトナム・ホーチミン市 地下水位低下と地盤沈下の明瞭な関係(出所:『Sinking coastal cities』Gilles.Erkensほか)第3種郵便物認可 上げで地盤沈下の問題が顕在化し、構造物の不等沈下や洪水被害が頻発している。なぜなら過去50年間でバンコク南部の海岸線が、500~1000m内陸に移動し、市内の地表面の標高は、平均海面と同レベルになっている。 同国政府は国際的には珍しい「地下水税」や「地下水保存税」などの課税制度を導入しているが、違法な井戸が多く、同市内では年間1~2cmの地盤沈下が進行しており、幹線道路の陥没や住宅が壊れるなど被害が顕在化している。4. フィリピン・首都マニラ……地盤沈下が都市型洪水の主因に マニラ(人口2500万人)では地下水の過剰汲み上げによって地盤沈下が深刻化している。 最近の研究では、メトロマニラで頻発している都市型洪水は地盤沈下が主因であると指摘されている。とりわけマニラ北東部のカマナバ地区では洪水範囲が急拡大している。 地盤沈下により洪水がいったん起こると浸水時間が長くなり、また潮が満ちると海水が排水溝を逆流し、日常的な洪水被害も増加している。つまり降雨だけではなく、高潮との二つの要因が重なり洪水被害を拡大させているのだ。 なぜマニラ地域の地盤沈下が加速度的に進むのか。それは被害の大きい地域の地盤がほとんど粘土質だからである。粘土は水が無くなると固まる性質があり、一度固まると雨が降っても保水できず回復が不可能である。5. ベトナム・ホーチミン市……工業化で地盤沈下進む 同国の環境省水源管理局が2014年から2017年にかけ、ホーチミン市とメコンデルタ地方の地盤調査(339ヵ所)を行った結果、全体の90%に当たる306ヵ所で地盤沈下が確認された。 ホーチミン市では14の区と郡で深刻な地盤沈下が進行している。このメコンデルタ地方は、ベトナム最大都市のホーチミン市民(人口1800万人)が住み、同国での経済中心、またコメの産地でもある。 地盤沈下は1996年頃から顕在化し、2004年以降そのスピードが加速。特にビンタイン地区で沈下速度が速くなっている。2017年の地盤沈下の観測では、ビンタンク区では81.4cm、メコンデルタ地域では62.2cmの地盤沈下が確認されている。 主因は工業化の進行による地下水の過剰汲み上げである。同市の資源環境局の資料によると、ホーチミン市で取水されている地下水は一日当たり100~200万m3だが、地表面からの地下水流入量は一日当たりわずか20万m3であり地盤沈下が毎日進行している。同市の人民委員会は2007年に地下水取水 第1900号 令和元年8月27日(火)発行(39)を制限したが、実効は上がっていない。さいごに 日本も1960年代まで地下水の過剰汲み上げで地盤沈下が頻発した。その結果、全国のゼロメートル地帯は急拡大した。政府は昭和31(1956)年「工業用水法で一定規模の工業用井戸について許可制」にし許可基準を定め地盤沈下の防止を図った。また昭和37(1962)年「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」を定め、許可制にして地盤沈下の防止を強化。特に大阪府、東京都、埼玉県、千葉県は条例に基づく規制を強化した。その結果、昭和48(1973)年頃から地盤沈下は減少傾向を示し、昭和54(1979)年から地盤沈下は沈静化状態になった。 つまり政府の強力な政策と自治体の努力によって地下水汲み上げによる地盤沈下防止が図られたのである。これら日本の生きたノウハウや技術をアジア諸国に伝授しアジアの繁栄に貢献することも経済大国になった日本の役目であろう。
元のページ ../index.html#2