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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 海水淡水化プラントは多くの環境問題を抱えている。淡水化技術には大きく分けて蒸発法と膜法(RO膜使用)があり、現在主流になっているRO膜法でも現状4kW/m3前後の電力を消費する電力多消費型で、地球環境問題であるCO2削減問題に大きくかかわっている。また真水(生産水)を取り出した後の濃縮水(ブライン、塩分濃度6~8%)の処理も大きな問題になっている。小さなスケールでこれらの諸問題を解決し実証されたプラントは多いが、オーストラリア・ビクトリア州メルボルンでは南半球最大級の海水淡水化プラント(約44万m3/日)が2012年から順調に稼働し、極めて環境にやさしい海水淡水化プラントとして世界中の注目を集めている。その概要を紹介する。第1856号 平成 29年11月21日(火)発行 約1/4と少なく、水資源の確保は国家の経済を左右している。1-2 干ばつによる農業被害 同国の農業被害も深刻であり、干ばつが豪州経済に与える影響についてOECDやRBA(豪州準備銀行)などは同国GDPを0.5~0.7%程度引き下げるのではないかとの見通しを示している。 その対策として豪州政府は、国内農地の約半分を干ばつ被害地域に指定し、農家の減収補填、利子補給などで11億ドル以上の補助金を支出している(2006~2007年)。逆に水不足が深刻になるに連れて、水利権が高騰し、2007年以降、農業や酪農をあきらめ、その水利権を売買することにより大きな収入を得る農家も出てきて、水利権売買は一つのビジネスともなっている。 このような背景下で、ビクトリア州の州都メルボルン市は恒久的な渇水対策を目的とした官民連携プロジェクト(PPP)を計画し、立ち上げられたのがビクトリア州の海水淡水化プロジェクトである。 同国には、既に大型の海水淡水化プラントは沢山(パース29.3万m3/日、ゴールドコースト125万m3/日、アデレード27万m3/日、シドニー25万m3/日)あるが、PPP事業によるプラント導入は初めてのケースである。2-1  アクアシュアコンソーシアム(経営母体) コンソーシアムは水・環境事業の大手、水メジャーと言われるスエズグループと豪州最大手のゼネコンであるティース、豪州最大手投資銀行マッコリーの3社で構成されている。建設総事業費は約2800億円(2009年当時)から3100億円第3種郵便物認可豪州・主な海水淡水化プラント(出所:SUEZ Presentation Slide)2. ビクトリア州海水淡水化プラント吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]環境を重視した豪州メルボルンの海水淡水化プラント311.オーストラリアの干ばつ被害 1-1.背景 日本の国土面積の約20倍ある豪州では歴史的に大規模な干ばつが繰り返し発生している。豪州は広大な土地を利用し、大規模な農業が行われているイメージがあるが、国土の大半は砂漠や乾燥した草原であり、酪農や農業が可能な地域は非常に限られている。また同国の年平均降水量は日本と比べ

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