SEWグローバル・ウォーター・ナビ エジプトとエチオピアとの「水戦争」が再燃している。エチオピアが建設しているナイル川上流のアフリカ最大の巨大ダムが完成しようとしている。仮に、このダムが完成し貯水を始めるとナイル川の水位が大きく下がり、経済に大きな影響を与えると流域諸国から不安と怒りが寄せられている。ひときわ激しい怒りはエジプトである。2013年当時、エジプトのムハンマド・ムルシ大統領は国民に向けたテレビ演説で「我が国はエチオピアとの戦争は望んでいない、しかしエジプト文明と国家を支えてきたナイル川の水量が減少することは絶対に受け入れられない。我々にはあらゆる選択肢の可能性がある」と強い調子で訴えた。この背景は前週にエジプトの政治家が、ダム建設を止めないエチオピアに対し「ダム建設はエジプトへの宣戦布告に等しい、ただちに軍事行動を起こすべき」と示唆し、両国間で水戦争が勃発する懸念が強まったことを抑える演説であった。だが2013年7月に軍のクーデターによってムルシ大統領は解任された。ホスニ・ムバラク元大統領に比べ弱腰を非難されたのでは、との観測も出された。「水無くして、国家無し」の概念は日本人には馴染みがないが、今や世界の常識で第1852号 平成 29年9月26日(火)発行 ある。今回は国際河川・ナイル川を巡る国家間の水争いを紹介する。1.ナイル川上流の巨大ダム◦ナイル川とは ナイル川はアフリカ大陸東北部の10ヵ国を流域に持つ世界最長級の河川であり、長さは6650km、流域面積287万km2にのぼり最後は地中海に注いでいる。流域国は下流から、エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、コンゴ、ルワンダ、ブルンジであるが、ナイル川の源流はどこか、いまだに論争が続いている。一般的にはタンザニア、ケニア、ウガンダ三国にまたがるビクトリア湖(面積6万8800km2、アフリカ最大、世界第三位の大きさ)とされているが、実はビクトリア湖に流れ込んでいる最大河川はルワンダを源流としている。そのルワンダも上流国のブルンジと源流争いをしている。またナイル川は白ナイルと青ナイルで構成されており、エチオピアはナイル川のほとんどの水量を支えているのは青ナイルで、その源流は同国のタナ湖(面積3000km2、海抜1800m)であると主張している。このようにナイル川は流域諸国の国家の命運をかけ、いまだに水掛け論が続いている国際河川である。◦ 大エチオピア・ルネッサンス・ダム 建設中の巨大ダムは、「大エチオピア・ルネサンス・ダム」(Grand Ethiopian Renaissance Dam)である。スーダンとの国境に近いエチオピア西部で2010年から建設が始まった。イタリア企業(Salini Costruttori)が受注し総工費約第3種郵便物認可(出所:「National Water Resource Plan 2017」, Ministry of Water Resource and Irrigation(2005)に筆者加筆)ナイル川流域図吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]国際河川を巡る争い “ナイル川は誰のものか”29
元のページ ../index.html#83