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EWSグローバル・ウォーター・ナビ 2017年7月20日、ニューヨーク国連本部で「第三回 国連水と災害に関する特別会合」が開催された。これは「水と災害」をテーマとする国連における唯一の特別会合で、目的は、水と災害に関する国際的な意識を高め、国際社会の水災害防止に関する活動を前進させることである。主催は「防災と水に関する国連事務総長特使」、および「水と災害ハイレベル・パネル(HELP)※1」であるが、第一回から日本政府が主導している。オープニングでは、皇太子殿下のビデオによる基調講演が行われた。1.皇太子殿下の基調講演 我が国の皇太子殿下は、第一回、第二回ともに国連NY本部での特別会合にご出席されご講演をされている。今回の会合には、残念ながらご出席はされなかったがビデオでご講演をされた。テーマは「水に働きかける」。英語で約27分間話された、その内容の一部をご紹介させて頂きたい。 「私は昨秋、信玄堤を訪れました。信玄堤は、日本の戦国時代の傑出した武将である武田信玄に※1  High-level Experts and Leaders Panel on Water and Disasters第1850号 平成 29年8月29日(火)発行 よって建設されました。信玄堤というと、堤防という構造物が連続して設置されているイメージを持ちますが、信玄の目指したところは、単なる堤防だけでなく、異なった機能の施設を巧みに配し、当時暴れ川だった釜無川の洪水を制御し、その豊かな水量の恩恵を自国にもたらすことにあったようです。(中略)このような角度から歴史的水施設を見てみると、人はそこにある地形や自然のありさまを俯瞰し、それに対して自らの持てる知見と手段を適合させてきたように見えます。こうしたやり方は現在でも立派に通用するものです。今後の私たちが水に働きかけていくうえで貴重な示唆になりうるのではないでしょうか」 さらに、海外の事例にも触れられ、「クアラルンプールでは、2007年から洪水放水路と道路トンネルを兼ねたSMARTトンネルが運用されています。この施設は200を超えるCCTVカメラを設置するなど情報技術を駆使し、安全面に多くの配慮がなされ、現代の都市で大きな課題となっている都市洪水と渋滞対策に対し、一つの施設で解決を図っているところに特徴があります」と。 皇太子殿下、自らこの施設を視察され、その壮大な構想と実用性に驚かれたと振り返り、科学技術の進展への期待を語られた。ご講演の最後に、「人類が掲げた高い共通の目標達成の礎をなすため、世界の人々とともに様々な水問題解決に向けて歩みを続けていきたい」と決意を述べられた。 皇太子殿下は日本の歴史的な水に関する事例を、自ら足を運び撮影した写真や制作した図表を用いて分かりやすく説明され、特に歴史から学ぶことの意義を語られている。 今回、サポート役として特別会合に出席した日本水フォーラムの関係者は、こうした皇太子殿下の水に対する真摯な姿勢、研究内容の深さは、世界中から集まったハイレベル・パネル出席者や多くの聴講者に大きな感動を与えたと伝えている。皇太子殿下の今回のご講演の詳細については、ぜひ宮内庁のホームページをご覧頂きたい。 筆者も第三回世界水フォーラム(2003年、京都)、第五回世界水フォーラム(2009年、トルコ・イスタンブール)、「国連水と衛生に関する諮問委員会」などで、皇太子殿下のご講演を直接拝聴したが、いずれの講演資料も自ら現地に赴き、取材し、また写真も自ら撮影したものが使われている。皇太子殿下の水に関する造詣の深さは、国際的な水関係者の間では、「水の専門家」として良く知られている事実であるが、日本のマスコミは「皇太子殿下、水に関する会合で講演した」と事実は報道するが、その内容について詳述している例はほとんどない、残念なことである。世界が直面する水問題の解決策を、「水と人との歴史上の関わり合いを踏まえ、技術と智慧を持って水の輪を拡げましょう」と第3種郵便物認可吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]~皇太子殿下の基調講演 “水に働きかける”~28第三回 国連・水と災害に関する特別会合ニューヨークで開催

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