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SEWグローバル・ウォーター・ナビ 四月にサウジアラビア・サルマン国王が46年ぶりに来日し、安倍晋三首相と会談し両国の経済協力を軸とした「日・サウジ・ビジョン2030」に合意した。このビジョンに織り込まれた主な協力案件は①競争力のある産業構築・育成(新規製造業)、②エネルギー問題(省エネ、再生エネルギー推進)、③質の高いインフラ整備(海水淡水化の増強、効率化)、④経済特区による両国のビジネス促進などである。なぜ世界一の産油国サウジアラビア(以下サウジ)の王様が自らビジネス開拓に乗り出したのか。その背景と水資源の開発現状について述べる。1.石油立国に危機感 サウジは国家財政収入の8割以上を原油および石油関連製品の輸出に頼っていたが、米国のシェールガス・オイルなどの台頭で原油価格が下落。その結果国家財政は3年連続で赤字に陥っている(2017年は6兆円の財政赤字となる見込み)。サウジを含む湾岸協力会議(GCC)諸国は「アラブの春」以来の経済発展に伴ってアジア諸国(インド、パキスタン、フィリピンなど)やエジプトなど所得水準の低い諸国から多数の出稼ぎ労働者を受け入れてきた。この結果、カ第3種郵便物認可 タールやUAEでは人口の8割を外国人が占める特異な社会構造になった。一方、医療水準が上がった結果、乳児死亡率も低下し自国民人口の急増も続いている。◦サウジ国民人口の急増 サウジの例では、81年国民人口は約980万人だったが91年に約1600万さらに2014年には3000万人を突破している。サウジは出稼ぎ労働者の入国に厳しい制限を加えていたので、居住人口の3分の2は自国民である。サウジで働く自国民の6割以上は国営企業や公的部門に就職している。しかし80年代からの人口急増で国営企業や役所の席は、既に満杯である。しかも同国では人口の半数近くは25歳未満であり、当然若者の就職先がほとんど無い状態である。 サウジ人は基本的にプライドが高く、役所や国営企業に職を求めたがり、しかも人を動かす管理職狙いである。さらに顧客に頭を下げたり、現場で汗を流したりする仕事を嫌う文化もある。◦若者の3~4割は職なし 民間企業のオーナー(サウジ人)にしてみれば出稼ぎ労働者より賃金が高く、しかも仕事をしない自国民を雇う必要がない。その結果サウジの若者のおよそ3~4割は職についていないと言われている。第1845号 平成 29年6月20日(火)発行しかし彼らは生活には困っていない。GCC諸国では基本的に個人の所得税は無く、いくら家族が多くても教育費や医療費は無料、ガソリン代、水道や電気代なども多額の政府補助金によりきわめて低く抑えられてきた(ガソリン18円/ℓ、水道3.0円/m3、電気6円/kWh、2015年)。GCC諸国は極端に言えば職がなくとも生活が出来る国なのである。だが石油の価格の急落で国家が国民の生活を丸抱えできるような体制は崩壊寸前となってきたのだ。◦石油王国から産業立国へ このような背景からサルマン国王、自ら「サウジ・ビジョン2030」を掲げ石油王国から産業立国へとかじ取りをするために日本だけではなく、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、中国などを歴訪。アジア重視の姿勢を示すとともに「石油王国からの脱却プロジェクト」をビジネスチャンスと捉える日本を含むアジア各国を互いに競わせ、最大限の協力を引き出す構えである。2.「日・サウジ・ビジョン2030」に合意 安倍首相とサルマン国王との間で「日・サウジ・ビジョン2030」を締結。特に経済特区の新設に関し、両国関係を「戦略的パートナー」と位置付け、日本の官民挙げて、サウジの目指す「脱石油国家創生」を支援する連携強化を打ち出した。具体的には民間主導で20プロジェクトに合意した覚書が公表された。水に関する案件では、①東洋紡と水処理膜の開発、②JFEエンジニアリングと海水淡水化装置の共同開発、③ササクラと海水淡水化プラントの効率化による商吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]石油王国サウジアラビアの水環境と水ビジネス26

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