SEWグローバル・ウォーター・ナビ 2016年4月に台湾で開催された「第12回世界ろ過会議」視察の機会を活用し、台湾の水処理膜開発関連研究者や膜メーカーと日・台技術検討会(主催:日本液体清澄化技術工業会)に参加した。隣国の台湾であるが、水環境や下水について報告された例が少ないので、今回、台湾の水環境および水ビジネスについて紹介する。1.台湾の水環境 地形は日本と同じように南北に山脈が走り、富士山より高い玉山(3952メートル、旧称新高山)がそびえている。国土面積3万6193平方キロメートル(九州と同程度)、森林面積は国土の約6割である。人口は2344万人(2015年)で都市部の人口密度が高い。平均年間降雨量はおよそ2510ミリ(世界平均の2.5倍)であるが地域により大きな差がある。 台湾は台風の常襲地であり、毎年大きな台風に襲われ、洪水、土砂崩れ、用水路の破壊、家屋の損壊被害も多い。しかし台湾の水資源の8割はこの台風や暴風雨によってもたらされている。地形上、ほとんどの河川は東側(山)から西側(海)に流れており、縦方向の河川がない。従って水資源の取水と配水は簡単ではなく、また都市第3種郵便物認可 部の人口密度が高いために、利用できる一人あたりの水資源量は少なく、世界平均の七分の一と言われている。過去10年間における国内水資源年間使用量は約180億トンであり、内訳は農業用水が71%、生活用水約20%、工業用水が約9%である(台湾水資源局)。台湾の水環境、簡単に言うと「水資源量は多いが水不足の国」である。2.台湾の上下水道 台湾の上下水道の歴史は、日本統治下にあった戦前と戦後に分けて考えてみたい。1)戦前の上下水道第1818号 平成 28年5月24日(火)発行◦台湾インフラの父…後藤新平 1898年、総督府民政長官として彼の残した業績は多岐にわたるが、インフラ整備面で見れば、まず鉄道や港湾、道路など交通網の整備を挙げることができる。その代表的なものとしては、縦貫鉄道の敷設、基隆港の国際商業港としての再整備などがある。さらに、旧台湾総督府官邸などに代表されるような、スケールの大きな建造物の建設も、その多くは後藤の発案で進められたものである。 さらに日本の諸都市に先んじて大規模な上水道や下水道の整備(雨水、汚水分流式採用)も進められた。医学学校で学んだ後藤にしてみれば、台湾は高温多湿の気候で衛生状態が極端に悪く台湾全土で水による伝染病(ペスト、コレラ、赤痢など)や風土病、マラリア病が蔓延していた状態を一刻も早く改善したかったのである。水道の整備には、日本水道を指導育成した英国人W・バートンと、その弟子の濱野弥四郎を送り込み、当時としては最新の土木建築や最先端左上:台湾・台北市水道局自来水(水道)博物館左下、右:日本統治時代に設置されその後、約50年にわたり使用されていた荏原製ポンプ【1922年製、300HP】吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]台湾の水環境と水ビジネスの現状14
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