SEWグローバル・ウォーター・ナビ 下水道には、汚水や雨水だけではなく、常に新鮮な情報が流れている。下水道はその国の社会情勢や国民の生活習慣、個人の日常生活の実態まで判明できる情報の宝庫である。1.下水道は個人情報の宝庫 朝、起きて顔を洗う、水洗トイレを使う、料理を作り食べ終えたら食器を洗う……これに伴って発生する下水は個人情報の宝庫である。下水が発生した時点で、そこには人間の営みであることが明らかになる。すべての人間が生きていくためには水が必要である。水を使うから生存が証明される。し尿や糞便には、個人が使用した医薬品が含まれ、最近の超微量分析機にかければ、抗がん剤や精神安定剤、鎮静剤の種類などほとんどが判明でき、その人の健康状態がリアルに判明する。 当然、下水の使用量により世帯の家族構成、ホルモン分析により男女の比率、使用時間により個人の生活スタイルまで簡単に想像できてしまう。常に決まった時間に決まった水量を使う、この人は堅実な人で、労働時間がキチンと決まっている公務員かな? といった想像もできてしまう。スポーツ選手のドーピング検査は有名だが、第3種郵便物認可 下水に含まれる情報は犯罪捜査にも活用されている。 例えば毎週決まった日時に大量に下水が流れる。高級マンションの駐車場には、そのスジの人が乗ってきたと思われる高級外車が並んでいる。となるとその場所で違法な賭博などが行われている可能性が高い。取り締まり当局は下水情報も一つの根拠として現場に踏む込み現行犯逮捕する(賭博は現行犯逮捕が原則)。さらに下水をサンプリングすれば、薬物(LSD、コカインなど)を使用しながら賭博している実態も明らかになるだろう。2.地域情報…下水道から麻薬 個人ではなく、その国の、ある地域の麻薬汚染の実態や麻薬中毒患者数を調べるには下水道は最高の情報源である。2005年イタリアの科学者が同国北部を流れているポー川を調査したところ、毎日4キログラムのコカインの代謝生成物が、下水処理場を通じてポー川に流れ込んでいることが判明した。残留していた代謝物の総量から計算すると、この地域のコカイン使用量は年間1500キログラムに相当する、取り締まり当局が予想していた吸引回数1万5千回/月をは第1816号 平成 28年4月26日(火)発行るかに上回る4万回/日(120万回/月)と推定され、ポー川流域住民の大規模な麻薬汚染の実態が明らかになった。ではなぜ代謝生成物なのか、コカインを服用した場合、肝臓でベンゾイルエクゴニン(BE)という代謝生成物になり体外(尿)に排出される。つまりBEは必ず人間の体内を通過したコカイン量を示し、誤って(する人はいないが)下水にコカインの生を流した場合と区別できるからである。3.欧州11ヵ国の違法薬物状況が下水道で判明 2011年、欧州史上、最大規模となった違法薬物調査では、コカインの一日あたりの使用量は約350キログラムであり、最も一般的に使われているのが大麻と推定された。その大麻の使用量ではオランダのアムステルダムがトップであり、コカインの使用量が最も多かったのはベルギー・アントワープであった(学術誌:Science of the Total Environment、2011年8月)。 薬物調査を主導したノルウェー水研究所のケビン・トーマス博士によると「下水を調査すれば、その都市の薬物市場の規模を特定できる」として欧州11ヵ国、19都市の下水処理場からサンプル水を採取し分析した(2011年3月9日から1週間)。 その調査結果によるとコカインの使用量が多かったアントワープに続き、オランダ・アムステルダム、スペイン・バレンシア、同じくスペイン・バルセロナ、英国・ロンドン、オランダ・ユトレヒトの順であった。またアムステルダムやユトレヒト、ロンドンなどではナイトクラブで好んで使われる汚染の実態が明らかに吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]下水道は情報の宝庫である13
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