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EWS購入費を削減する為に、市内を流れているフリント川からの直接取水であり年間400万ドル(約4.7億円)のコスト削減を実施したのが2014年4月であった。 フリント川から直接取水を始めてから、市民からクレームが続出。住民から水道水が濁っている、臭いがある、頭痛や発疹ができた、家族の髪の毛が抜け始めた等の多くのクレームが水道局に寄せられたが、市当局は「水道水は、連邦飲料水安全法に合致しており、安全であり健康には問題がない」と回答を繰り返していた。◦血液中から高レベルな鉛イオン 2015年10月に医療機関が子供たちの血液中の鉛のレベルを調査したところ、高濃度の鉛レベルが検出され大騒ぎになり、その原因を追究する過程で水道水源が注目された。◦フリント川の水質 フリント川の水質は、五大湖の水質とは異なり、汚染がひどく腐食生成物が多く含まれ、市内の老朽化した水道配管(鋼管および鉛管)を腐食させた。連邦水質基準では水道水の鉛イオン濃度15ppb(ppmの千分の一値)だが平均でを検出グローバル・ウォーター・ナビ 本年1月16日、バラク・オバマ大統領はミシガン州フリント市に緊急事態宣言を発した。10万人の市民、特に乳幼児・子供たちの血液から高濃度の鉛が検出され、すべての市民に水道水を飲むことを控える要請と、州兵や警察、ボランティアを総動員し、雪道の中を全世帯にペットボトルやビン詰めの水、さらに鉛を除去するフィルターを配布する命令を下した。米国では大統領による緊急事態宣言は、本来ハリケーン・カトリーナのような巨大な自然災害に発せられるが、なぜ今回は人災とも言える水道水の鉛汚染に発せられたのか、また水管理の責任者、さらに州知事が殺人予備罪で訴えられようとしているのか。2月に入り連邦捜査局(FBI)と米国環境保護庁(EPA)は合同で強制捜査に乗り出している。経費節減が招いた10万人への鉛中毒汚染、その背景について述べる。1.経費節減が招いた10万人市民の悲劇 ミシガン州フリント市はデトロイト市から北西約60マイルに位置する都市である。この市は米国を代表するGM(ゼネラルモーターズ)の発祥の地であり、長年にわたり自動車産業の城下町で製造の第3種郵便物認可 中心地であった。1950年代にGMは米国最大の企業となり拡大路線をとったが2000年以降は経営戦略の失敗により2009年に経営破たんし国有会社となった。同時にフリント市も財政破たんを来たし、事実上はミシガン州の管理下に置かれた。 20万人以上いたフリント市の人口は半減し、犯罪率の著しい増加とともに白人は市内から逃げ出し黒人主体の市となっていた。では、そこで何が起きたのか。◦財政削減で取水コストを削減 居住人口半減に伴いフリント市はあらゆる財政負担を軽くするために、予算削減に取り組んできた。その中に水道事業の予算削減があった。具体的には従来、デトロイト市から購入していた水道水の第1811号 平成 28年2月16日(火)発行TV報道・CNN 「フリント市の鉛毒入り水道水」吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]11ミシガン州フリント市の水道水鉛汚染

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