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EWSグローバル・ウォーター・ナビ 砂漠の国イラン・イスラム共和国。1995年以降の欧米などによる経済制裁が解除される見込みになり、世界の注目を集めている。イランは石油、天然ガスなどの地下資源が豊富だけでなく、約7800万人の人口をかかえる有望消費市場でもある。昨年7月経済制裁が解除される合意がなされた後、欧米や中国は数多くの経済使節団を送り込みビジネス拡大の構えをみせている。ここで問題になるのはあらゆる経済活動を支えている水資源の確保である。イランの国土の9割以上は乾燥地域であり絶対的に水資源が不足している。従って水資源の確保と水の有効利用が国家の大きな命題である。筆者は昨年11月に国連主催・イラン共和国共催の「国際水ワークショップ」に招待され「水とメディア」部門で講演し、さらに水関係者と論議してきた内容を紹介する。1.イランの水資源 イランはサウジアラビアに次ぐ中東における2番目に大きな国である。国土の9割以上は乾燥地帯である。国内の年間降水量はカスピ海沿岸の平均2000ミリを除けば、その他の地区は平均50ミリ以下である。しかも降水量の7割は、河川に達する前に蒸発してしまう。第3種郵便物認可 ・期待できない河川水イランには6つの主な流域が存在しているが、流域ごとに水資源は偏在している。また季節性が強く雪解け水の多い春先には洪水を引き起こし、夏には枯れてしまう河川も多い。従って表流水に多く期待できないので地下水への依存度が高く、カスピ海を取り巻く5千メートル級の山々の雪解け水が貴重な地下水源になっている。◦イランの水資源量 水資源量は1285億m3/年で、表流水は919億m3/年、地下水は366億m3/年であり、年間水使用量は930億m3/年(日本は830億m3/年)であり、農業用水が92%、家庭用水6%、工業用水2%である。 さらに国内の老朽化した水輸送インフラ設備では、約30%の水が失われている。第1809号 平成 28年1月19日(火)発行の大規模水供給設備を含む130の水供給プロジェクトを2016年までに完成させようと375百万米ドルで計画を進めているが予算不足で遅れている。その内容は◦ 多面的な水資源の確保(海水淡水化を含む)◦ 老朽化した水インフラの改善・改良◦不適切な農業用水の削減◦再生水の増強と活用◦ すべての分野での節水などである。3.首都テヘランの水事情 テヘラン市内へ水を供給しているダムは4ヵ所あり、その中でも容量の大きいラールダム湖が枯れ始めている。本来9億6000万トンの貯水能力があるが、わずか1800万トンしか利用できない状態が続いている。4つのダム湖を合わせても、平年の40%の貯水率しかない。 居住人口約1200万人と言われるテヘラン市について、同国エネルギー省によれば、「テヘラン市の給水人口はイラン全土の12%だが、イラン全土の水需要の25%を消費している。またテヘラン市民は水不足の危機を理解せず、平均して400リットル/日/人使用している、もっと節水を」と警告している。砂漠の国でありながら水への意識が低い、このような背景下でイラン国民への水啓蒙の国際ワークショップが計画された。4.国連UNESCO―イラン政府共催の「国際水ワークショップ」 2015年11月16-17日の二日間にわたりテヘラン・コンベンションセンターにて「国際水ワーク2.イラン政府による第5次5ヵ年水供給計画(2010―2015年) 五ヵ年計画の達成率は約8割とみられている。しかし近年の干ばつの影響により、517都市が重大な水不足に直面し、給水能力より水消費量が上回っている状態が2013年3月から続いている。 この水不足に対処するため水を管轄するエネルギー省はさらに12吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]10イラン・イスラム共和国の水資源問題

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