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季の始まりになるとトンレサップ湖の浸水林をめざし、産卵し繁殖する。浸水林は栄養塩類やプランクトンが多く、魚が繁殖する理想的な環境である。トンレサップ湖から、毎年約30万トンの魚の水揚げ高があり、これはカンボジアの内水面漁獲高のおよそ半分にあたる。つまり世界的にも、淡水魚が最も豊富な湖として知られている。◦水質汚染に直面するトンレサッ 湖上生活者は、飲料水をはじめすべての生活用水をトンレサップ湖から調達し、その生活排水も湖に排出している。当然食事に占める魚の量は多く、貴重なタンパク源となっている。さらに生魚だけではなく、塩漬けや燻製にし、現金収入を得ている。水質汚染の原因は、湖に捨てられる多種多様な廃棄物、湖上生活者から投げ込まれる生活ごみ、し尿、農薬、養殖場から排出される排水などであり、さらに毎年、雨季に大逆流してくる首都プノンペン(約150万人居住)の生下水や生ごみが年々堆積し腐敗が進んでいる。このために湖周辺の村では水系伝染病が蔓延プ湖第1807号 平成 27年12月22日(火)発行 し、多くの人々が命を落としている。アジア開発銀行の調べでは水系伝染病である赤痢、コレラだけではなく、マラリア、デング熱、急性呼吸器感染症、結核なども蔓延している。さらに毎年洪水を引き起こすメコン川の水量がメコン上流国のダム建設により激減し、さらに水質汚染を悪化させている。◦今後の政策は 国を挙げて生活指導や、違法廃棄物の投入禁止、水利改善による水質改善に取り組んでいるが、湖上生活者との対話の難しさもあり遅々として進んでいない。国際機関やNGO/NPOの協力を得てアジア有数のエコシステムを造る努力をし続けたいと力説している。4.メコン川の水問題 メコン川はチベット高原に源を発し、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムをおよそ4200kmに渡って流れ、南シナ海に注ぐ東南アジアの河である。流域の住民にとり最も重要なのは、前述のように、これほど水産資源が豊富な河は他にないことである。カンボジアとラオスは人口一人当たりの淡水魚の漁獲量が世界で最も多い国である。しかも豊富な水量は「水力発電の宝庫」でもある。メコン河流域の経済活動は活気づいているが、いまだに流域国で電気が使えるのはカンボジア人のおよそ三分の一、ラオス人の三分の二強に過ぎない。また使いたくても電気料金が高いのが現状である。国際エネルギー機関(IEA)は今後20年間でこのメコン流域国の電力需要は8割増加すると予測している。また地球温暖化対策としても水力発電の開発が有望視されている。 中国ではさらに5基のダム建設、下流のラオスとカンボジアでは建設中および計画中の大規模なダムが11基あり、これまでダムのなかった下流もせき止められることになり、魚の繁殖が阻害され、その結果漁獲量が激減し流域の6000万人の住民の暮らしに影響を及ぼすことが危惧されている。ここでも筆者が常に述べているように「エネルギーと食糧と水」のベストミックス(三位一体の解決策)が求められている。第3種郵便物認可写真3 豊富な漁獲量 魚の宝庫トンレサップ湖(Fishery, nature and eco-tourism From Wikipedia, free encyclopedia)

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