SEWグローバル・ウォーター・ナビ 10月10日に平壌で開かれた朝鮮労働党創建70周年の軍事パレードの模様が全世界に発信された。多くのメディアがその軍事力や兵器の能力を論じた。北朝鮮当局から一切それらの数値的な説明はない、すべてマスコミの推測である。 北朝鮮に関わる統計的な数値の判断は極めて困難である。なぜなら1965年以降、すべての統計的な数字や人事情報は国家最高機密とされ当局から公表されていない。現在得られている数値の多くは複数の海外メディアや衛星写真の解析、国際機関または脱北者からもたらされている情報の一部である。 10月に、私が北朝鮮を訪問した理由は国連ニューヨーク本部勤務時代から水の専門家として多くの途上国や紛争国の水問題解決に従事してきたが、北朝鮮の水問題に関しての信頼できる情報が極端に少ない。そこで現地入りし自分の目と足で「北朝鮮の上下水道事情」を直接確認してみたいというのが訪問目的であった。1.北朝鮮の基本知識 面積は日本の国土面積の約30%であり、朝鮮半島の面積の55%を占め韓国より大きい領土を有している。人口は2500万人(国連推計、2015年)で平壌には約220万人が第1805号 平成 27年11月24日(火)発行 居住、軍人は130万人を超すと言われている。政治的には社会主義であり配給制度で成り立っている。食糧、教育、電力、教育は原則無料となっているが、経済政策の失敗と海外からの経済制裁を受け、食糧は6割配給で国民の半数が栄養失調の状態(国連調査)であり、電力は燃料を購入する外貨がなく国家として厳しい情勢が続いている。年間降雨量は平壌で1000ミリから1200ミリであり、仮に水インフラが整っていれば食糧の増産や十分な給水ができるはずである。2.北朝鮮の水道事情 平壌市内のビルやホテル、住宅には水道が完備されているが、常時水が出ないことが多い。電力不足で給水ポンプが稼働できない。案内人付きで筆者も市内のビルやレストランに入ったがトイレには大きな水タンクが常設され、用を足した後、ひしゃくで水を汲み自分で流すことが要求された。【写真1】 また中核市(会寧市)の水道事情についてアジアプレスは次のように述べている。 「水道管の老朽化で真っ赤な錆水が出たり、ひどい消毒の匂いがする水道水が供給されている。水圧が弱くアパートの三階以上に住む人は1階まで降りてきて水を汲んでゆくしかない、しかもそんな水道も一日に1~2時間ほどしか出ない、最近の水質調査では発がん性物質が検出されたが、住民はそのまま飲んでいる」と。◦農村部 板門店までの3時間のバスでの移動中、農村部には水道施設(給水塔、水道橋、マンホール)らしきものは一切なく、河川水や地下水に頼っているものと思われる。同じくアジアプレスで地方の水道事情を報道している。「住民たちは水道が出ないから川の水を汲むしかない、川の水を飲むことは不衛第3種郵便物認可写真1 レストランの水道事情吉村 和就[グローバルウォータ・ジャパン代表 国連環境アドバイザー]知られざる北朝鮮の上下水道事情08
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